「そもそも、いまの人は昔の人に比べて、口のさまざまな機能が衰えているんです」
というのは、口のアンチエイジングの第一人者、鶴見大学歯学部附属病院病院長の斎藤一郎歯科医師だ。
「昔は『噛めば噛むほど味が出る』という食事が多かったものですが、現代人は、よく噛まずにのみ込める麺類などのやわらかい料理を好んで食べる傾向があります。その結果、噛む力が昔より衰えてきた。噛むことは単に食べものを細かくすることだけでなく、唾液の分泌を促したり、口のまわりの筋肉を鍛えたりする働きがあるのですが、それが充分でなくなってきているのです」
口の機能が衰えると、口の中だけでなく、体のさまざまな部分に悪影響が及ぶようになる。
まず、斎藤さんが挙げるのは、顔の老化だ。口のまわりには細かい筋肉がたくさんあるが、口を動かさないとそれらの筋力が低下し、その上にある皮膚と共に下垂してくる。その結果、ほうれい線やあごのたるみが目立つようになってくるという。
「ドライマウス」にもなりやすくなる。ドライマウスとは唾液の分泌が減り、口が乾く症状だ。薬の副作用や病気などで起こることもあるが、唾液を出す唾液腺の機能が低下することでも起こる。食べものがのみ込みにくくなるほか、会話をしにくい、口がネバネバする、口臭、舌の痛みといった症状が出る。
「しかも、抗菌作用を持つ唾液が減ることで、口の中に雑菌が繁殖しやすくなります。むし歯や歯周病にかかりやすくなるだけでなく、こうした雑菌が肺にはいると、誤嚥性肺炎を引き起こすこともあります」(斎藤さん)
斎藤さんはこれまで口にトラブルを抱えた人を大勢診ているが、多くの人は生活習慣病など、体の健康にも問題があるという。
「歯周病は、動脈硬化や糖尿病など他の病気とも関係しているという医学的な研究結果が出ています。それくらい口と全身の健康とはかかわりが深いのです」(斎藤さん)
つまり、口の健康を守ることが、全身の健康や老化を防ぐことにつながるのだ。
※女性セブン2011年10月27日号