大人力コラムニスト・石原壮一郎氏の「ニュースから学ぶ大人力」、今回は阪神・真弓監督の条件付きクビ通告から、「こじれない大人の別れの告げ方」を学びます。
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阪神の真弓監督が、崖っぷちに追い込まれています。ついこのあいだまで、坂井オーナーは「来年も続投」と言っていました。しかし、巨人に2戦連続でサヨナラ負けしてクライマックスシリーズへの自力進出の可能性が消滅した10月12日、3位以内か勝率5割以上を達成できなかった場合は「解任」とする方針であることが明らかになりました。
クライマックスシリーズに進める3位以内に入るには、巨人が残り試合を2勝2敗でも、10勝1敗という奇跡的な成績を残す必要があります。万が一、クライマックスシリーズに進出したところで、球団も本人も素直に「じゃあ、来年も」という雰囲気にはならないでしょう。実質的には、すでにクビを通告されたも同然です。
半端に条件を付けて結論を引き延ばしているのは、温情なんかではなく、どう見ても球団側の姑息な言い訳に過ぎません。大人としては、その姑息さに着目したいところ。真弓監督の解任騒動から、ずっと別れたいと思っていた奥さんや彼女に対して、少しでもコトを荒立てずに別れを告げるコツを学んでしまいましょう。
いきなり「もう別れよう」と言ったら、相手を無駄に刺激するだけ。逆上されたり意地になられたりなど、きっと面倒な展開になります。そこで参考にしたいのが、阪神球団のやり口。まずは、家事の手抜きやカードによる借金や、あるいは急激な体重の増加など、相手にとって「そこを突かれると痛い」という点に狙いを定めます。
その上で、「もう我慢の限界だ。しかし、反省して自分を変える気があるというなら話は別である。たとえば、1ヵ月後までに5キロ痩せられなかったら別れるというのはどうか?」といった提案をしてみましょう。「これから1ヵ月、毎日ちゃんとした夕食を作れなかったら」「この1ヵ月で借金をきれいにできなかったら」でもかまいません。
いずれにせよ、まず実行不可能な条件を突きつけることがポイント。ダメだとなった時点で「期待してたんだけど、残念だ」と言えば、別れることになった責任を何となく向こうに押し付けることができます。
そもそも、条件を突きつけている時点で「もういっしょにやっていく気はない」と言っているも同然なので、相手のモチベーションが上がるわけもなく、区切った期限を待たずに「じゃあ、別れてやるわよ」となる可能性も大。その場合も、最後の決断という大仕事を相手に担ってもらえます。
ちょっと胸が痛みそうですが、天下の人気球団が平気で同じようなことをやっていると思えば、少しは気が楽になるはず。ついでに、すでに水面下で次の監督候補を探している阪神にならって、提案と同時に水面下で次を探してみるのも一興です。そう簡単には見つからないでしょうけど、阪神のような人気モノになれた気分は味わえるかもしれません。