東日本大震災や未曾有の円高、さらには来たる増税など、様々な変化の直面に立たされている我々日本国民。こんな時代にこそ強力なリーダーシップが求められる。最新刊『「リーダーの条件」が変わった』で、新たなビジョナリー・リーダー像を提示した大前研一氏が、これからの指導者が踏まえるべき新世界ビジョンを披瀝する。
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いま我々は、新たな歴史認識、世界史観を持たねばならない時期にきている。これまで世界では北の国が栄えて先進国となり、南の国の大半は発展が遅れて途上国と呼ばれてきた。そして東西冷戦の終焉後、南北間の葛藤が一気に表面化した。先進国と途上国の極めて大きな貧富の差いわゆる「南北問題」である。
だが、今や両者の関係は逆転し始めている。周知の通り、この10年ぐらいの間に北の先進国がことごとく低迷するようになり、南の途上国の中から経済成長する新興国が続々と登場しているのだ。
もしかすると、これはある意味で「西欧の終わりの始まり」かもしれない。ただし、フランシス・フクヤマが言うような文明の問題ではなく、産業革命以降、北の国が独占してきた技術が南の国に移ってきて、南の国でも北の国と同じようなことができるようになった、ということである。
人類社会は、成熟国が2世代続けて繁栄を維持する方法を見つけていないのではないか、と思う。なぜなら、成熟国では世代が替わると、様々なことが大きく変化しているからだ。
たとえば、尾籠(びろう)な話で恐縮だが、1960年代までの日本の一般家庭のトイレは、ほとんどが汚物を和式便器の下に溜める汲み取り式だった。しかし1970年代に入ると、洋式便器と水洗式が普及し始めて我が家もそうなった。
このため70年代生まれの私の息子たちは、小学校の遠足に行った時、田舎の和式便器にしゃがんで用を足すことができず、排便を我慢したまま自宅に帰ってきた。つまり、トイレのような毎日の生活に欠かせない基本的な行為でさえ、1世代でガラリと変わってしまう。世代の交代というのは、それほど影響が大きいのだ。
それと同様に世界の勢力図も20世紀後半第2次世界大戦が終わってからの50年でガラリと変わり、とくにここ10年ほどは南北の隔たりがなくなるという革命的な変化が起きている。
その理由の1つは、インターネットとPC(パソコン)、携帯電話などの普及によるサイバー社会の出現である。それによって「能力の習得」が極めて簡単になっている。
南の途上国に生まれ育っても、子供の頃からネットに触れていれば、北の先進国と同等の教育を受けることができるし、世界中の情報も直接入手できる。努力次第で北の国の人々と同じような能力・スキルを身につけることができるようになった。
その同じような能力を身につけた南の国の人々が、コストは北の国の10分の1程度で雇えるから、企業が大量に南の国(中国も含む)へと移っていったのである。
※SAPIO2011年10月26日号