世界の組織犯罪について特集を組んだアメリカのハイテク雑誌『WIRED』の今年2月号によれば、現在、その“産業規模”は約2兆ドル(150兆円余り)。GDP(国内総生産)で言えば、世界第7位のブラジル、第8位のイタリアとほぼ同規模だ。その中心はコカイン、ヘロインなど薬物の密輸である。では、そうした巨大マネーを動かしている世界のマフィアの潮流はどうなっているのか。
今年7月25日、オバマ大統領は「国際的犯罪組織に関する戦略」を発表し、資産の凍結などの金融制裁を科す大統領令に署名した。その対象となったのはロシアの「ザ・ブラザーズ・サークル」、イタリアの「カモッラ」、日本の「ヤクザ」、メキシコの「ロス・セタス」の4つである。
かつてアメリカに流れ込む麻薬の中南米最大の生産地、流通地と言えばコロンビアだったが、1990年代にアメリカの掃討作戦などによって「カリ・カルテル」「メデジン・カルテル」(カルテルは麻薬組織の意)が壊滅した。
代わって生産、流通を担うようになったのがメキシコである。先述した「ロス・セタス」の他、「シナロア」「フアレス」など8つのカルテルがあり、アメリカの違法薬物の70%に関わり、年間の売り上げは136億ドルから484億ドルと見られている。
2006年にカルデロンが大統領に就任すると、軍隊を導入して麻薬組織の撲滅に乗り出したが、カルテル側の抵抗、報復も凄まじく、「麻薬戦争」の様相を呈している。
これまでにカルテルによって約4万人が殺害され、ある事件では取り締まりの警官本人、家族、隣人の計12人が犠牲になった。殺害方法は残虐そのもので、耳を削ぐなどの拷問を行ない、首や手足を切断し、遺体を橋桁にさらす、大量の死体を強酸液プールに投げ入れて溶かし、その写真をネットにさらす、といった具合だ。
アメリカもブッシュ政権時代から14億ドルの予算を計上し、メキシコに軍用ヘリも贈与してきたが、去年、カルテルに殺された人数は1万5000人を超え、史上最悪を記録した。
※SAPIO2011年10月26日号