ベストセラー『がんばらない』著者の鎌田實氏は、長野県の諏訪中央病院の名誉院長でもある。チェルノブイリや震災のボランティアに取り組んできた氏が、今回は東北地方に障害のある人たちと旅に出た。以下は鎌田氏による報告である。
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車椅子のおじさんが身を乗り出している。嬉しそうだ。がんを患っているおばさんは、ハワイアンの音楽に合わせて気持ちよさそうに身体を揺らしている――。
これまで7年間、僕は年に2回、ボランティアで、障害のある人たちと旅をしてきた。春は外国、秋は温泉。今回は、東北を助けたいと思い、『鎌田實と東北へ行こう』という2泊3日のバスツアーを実施した。その最後の夜、宿泊先の宮城県松島のホテルに、福島県いわき市のスパリゾートハワイアンズのフラガールたちが駆けつけてくれたのだ。
今回のツアーは、東北を応援するツアーだから、東京への帰途、福島市の観光果樹園で昼食を摂り、ブドウ狩りをしてきた。福島の観光果樹園は、どこも人がやってこないため、前年の10%にも満たない状態だという。
そこへ、ツアーのバスが5台乗り込んだとあって、果樹園の人々は「バスがこんなに停まったのは、久しぶりだ」と大喜び。ツアーに参加した人たちは、ブドウのおいしさに大喜びだった。このブドウはもちろん、福島県の検査が行なわれ、安全の証明も出ている。さらにもう1回、食物放射線量の検査をして「不検出」の確認もとっている。
いま東北6県の観光業は、非常に厳しい状況に置かれている。東北観光推進機構の調べによると、主な観光地の入込数は軒並みダウン。宮城県の名刹、瑞巌寺の4月の集計は前年比8%。ゴールデンウィークの5月も28%というありさまだった。
福島の会津武家屋敷では、4月は12%に落ち込み、5月は33%の上向きになったが、7月でも36%。前年比192%と大幅に増えたのは、世界遺産に登録された中尊寺だけだった。
あまり被災していない青森の小牧温泉へ9月に行ったが、超有名な旅館も惨憺たる状況で、お客さんが来ていなかった。少しでも集客につなげようと、毎晩、職員たちの手による、ねぶた祭りが行なわれていたが、非常に厳しいという。山形県の天童温泉もまた、閑古鳥が鳴いていた。
ましてや津波の大被害を受けた宮城県の沿岸部では、客が激減した。松島で泊まった大観荘も例外ではなく、「一時期は職員の解雇も考えました」と女将。復興支援に来てくれた警察やボランティアの人たちが泊まってくれたのが、利益にはならないが、ありがたかった。なんとか解雇しないですんだという。
松島湾の観光船の船長とも話したが、2~3人のお客を乗せただけの“松島めぐり”がずっと続いた。高騰した燃料を捨てているような状態で、泣きたいくらい悲しく、毎日うつうつとしていたという。
僕が見てきた限り、東北の傷は今も深い。そしてこれからも長い闘いになるだろう。日本中だけでなく、世界各国からも何千億円もの義捐金が寄せられたのに、それが被災者のところに届いていないという現実が未だにある。
義捐金が届かないなら、こちらから東北に向かおうではないか。紅葉を見ながら温泉に浸かって復興支援。秋の行楽シーズンは、みんなで東北へ行こう。
※週刊ポスト2011年10月28日号