国際情報

ソマリア海賊から日本船守るためスリランカ退役軍人雇う理由

「PMC(民間軍事会社)」という言葉からは、特殊部隊OBの武装警備員がアフガニスタンやイラクといった紛争地帯で軍に代わった役割を担う、といった「遠い世界での話」との印象を抱くかもしれない。しかし、まさに今、日本の海運の安全がその武装警備員に委ねられようとしている。報道カメラマン・横田徹氏が“洋上の最前線”から報告する。

 * * *
 そもそもの始まりは、東京に拠点をおくある海運会社法務部の染谷喜隆氏の言葉だった。

「ソマリアの海賊が、インド洋にまで進出し、保険料が大幅に値上げされました。このままでは商売あがったりですよ」

 小型ボートで民間船を襲い、身代金を払うまで人質を拘留し続けるそんなソマリア海賊から日本の商船を守るため、2009年に海賊対処法が制定され、自衛隊が派遣されていることからも、もちろん海賊が脅威であることは知っていたが、インド洋全域にまで活動範囲を広げていたとは驚いた。

「日本の海上自衛隊をはじめ、各国がソマリア沖やアデン湾に海軍を派遣していますが、広大な海域をカバーするには物理的な限界があります。ソマリア海賊は、警戒海域を巧みに避けて動き、最近では、奪った貨物船を母船にして小型の襲撃用ボートを搭載しているため、インド洋全域で活動できるようになったのです」(染谷氏)

 そのため、今まで危険地域とされていたアデン湾周辺だけでなく、インド洋全体が危険地域と損保会社から査定され、今年の1月を境に、貨物船の保険料が跳ね上がったのだという。

「ところが、世界のほとんどの船会社は船員の武装を禁止していて、その現状を、もちろん海賊も知っています。だから民間船が海賊に襲われたら、船のスピードを上げて逃げるか、消火ホースの水で応戦するくらいしかできません。しかし、これらの手段だけでは、とうてい安全は確保できない」

 そこで染谷氏の所属する海運会社は、日本企業としては類を見ない実験的航行を実施することを決めた。日本で車両を積み込み、スリランカを経由して、ペルシャ湾に向かう香港籍の自動車運搬船「シェン・シー号」に、スリランカ海軍の退役軍人を中心とした武装警備員を同乗させるという試みである。だが、なぜ「スリランカの武装警備員」なのか。

 染谷氏が語る。

「過去にはイギリスのPMCを使ったこともあったのですが、いくら安全を確保するためとはいえ、我々は民間企業です。コストを度外視するわけにもいきません。スリランカの警備会社は名前こそ知られていませんが、所属する武装警備員は、テロ組織『タミール・イーラム 解放の虎』と、つい2年前まで内戦を戦っていた経験豊富な退役軍人ですので、十分信頼に足ると思っています。コストはイギリス企業の半値以下です」

※SAPIO2011年10月26日号

関連記事

トピックス

三笠宮妃百合子さま(時事通信フォト)
百合子さま逝去で“三笠宮家当主”をめぐる議論再燃か 喪主を務める彬子さまと母・信子さまと間には深い溝
女性セブン
氷川きよしが紅白に出場するのは24回目(産経新聞社)
「胸中の先生と常に一緒なのです」氷川きよしが初めて告白した“幼少期のいじめ体験”と“池田大作氏一周忌への思い”
女性セブン
公益通報されていた世耕弘成・前党参院幹事長(時事通信フォト)
【スクープ】世耕弘成氏、自らが理事長を務める近畿大学で公益通報されていた 教職員組合が「大学を自身の政治活動に利用、私物化している」と告発
週刊ポスト
多くのドラマや映画で活躍する俳優の菅田将暉
菅田将暉の七光りやコネではない!「けんと」「新樹」弟2人が快進撃を見せる必然
NEWSポストセブン
阪神西宮駅前の演説もすさまじい人だかりだった(11月4日)
「立花さんのYouTubeでテレビのウソがわかった」「メディアは一切信用しない」兵庫県知事選、斎藤元彦氏の応援団に“1か月密着取材” 見えてきた勝利の背景
週刊ポスト
田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 小沢一郎が吠えた「最後の政権交代を実現する」ほか
NEWSポストセブン