神と呼ばれた男、スティーブ・ジョブズ(享年56)。ジョブズがプレゼンテーションするたびに、世界の常識が変わる。彼の動向は否応なしに大きな注目を集めた。そこで発揮されるのが、彼一流の話術だ。
「製品発表の場で仮想敵をつくり、厳しく非難したりバカにしながら、アピールしたい商品を光らせます」とは経営コンサルタントでかつてアップル社で働いた経験を持つ竹内一正氏。おかげで、マイクロソフトは「趣味が悪い」と貶され、IBMも「こんな企業が勝ったら、パソコン業界は暗黒時代になる」とボロクソにいわれた。
もっとも、そんなジョブズの悪口三昧は、生来のものだという説も根強い。
彼はアップル不振時代に、大型提携を模索して来日、ある大企業を訪問している。ところが、その社長が直々に製品説明をはじめるや、ジョブズは叫んだ。
「このマシンはクズだ。もっとマシなものを出せ!」
ITジャーナリスト・林信行氏によれば、ジョブズは日本の家電メーカーも標的にした。
「どの会社も固定観念から脱していない。やつらは海岸を埋め尽くす死んだ魚だ、とかみついています」
ピクサーの重鎮とジョブズも認めるアルビー・レイ・スミスも地雷を踏んだ。
「ジョブズがホワイトボードに書いた間違いを、アルビーがマーカーで正そうとした瞬間、ジョブズは『触るな!』と吠え、罵倒と屈辱の言葉を吐きかけたそうです」(経済誌記者)
アルビーは辞表を叩きつけた。ジョブズは激高しても、しばらくしたらケロッとしたもので、周囲は「物忘れの天才」と呼んだ。
もっとも、ジョブズは思い通りに事が運ばない場合、よく涙ぐんでもいたという。
そういえば、彼の復帰後のアップルでは、情報管理が徹底された。機密漏洩者は即刻クビとなり、ドアの開け閉めもチェックされた。こんな社風にもジョブズの一面が見え隠れする。
※週刊ポスト2011年10月28日号