金王朝の“三代目”が公式に登場してから1年が過ぎた。金正恩とはいかなる人物で北朝鮮の国民は彼をどう見ているのか。脱北者や現地の協力者に取材を続けているアジアプレスの李鎮洙氏が語る。
「公式に実名や顔写真が明かされる少し前から、最小の行政単位である人民班の会議などでは、金正恩の“噂”が語られることが多かったと聞く。
上から指示を受けた班長や国家安全保衛部の指導員が『金正恩は身分を隠して10年間も軍務に就いていた偉大な軍事家だ』といった喧伝から、『3歳で車の運転を覚え、5歳の時には1人で清津市まで運転した』という常人離れした“逸話”まで話すのだが、あまりにも荒唐無稽なので真面目に聞く人は誰もいない。誰かが後ろで『3歳の子供がどうやったらクラッチに足が届くんだ』と呟き、一同が失笑したという話もあるほど。
一般の人民にとっては、後継者が誰であろうと自分たちの生活が良くならなければ意味がなく、総じて冷ややかな受け止め方をしている」
※SAPIO2011年10月26日号