日本だけでなくアジアを席巻する「韓流」ブーム。その一方で、「性接待」や「奴隷契約」など、暗部を示す話題に事欠かない韓国芸能界の裏にも暴力団が見え隠れする。ジャーナリスト・李策氏が、隣国の実態をレポートする。
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韓流ブームがアジアを席巻し始めた2000年代前半から、今度はエンタテインメント関連銘柄のコスダック上場がブームとなる。その数は、少なくとも30社以上。所属タレントであるペ・ヨンジュンが筆頭株主のキーイースト、映画『猟奇的な彼女』の女優チョン・ジヒョンがかつて所属していたIHQなどが代表格だ。
とは言っても、取引所の審査を経て上場している企業は、少女時代の所属するSMエンタテインメントなどごく一部に過ぎない。
ほとんどのエンタメ銘柄は、業績が低迷しているコスダックのボロ会社を芸能プロが買収・改名し、自社の事業を引き継がせる形でいわば「裏口上場」したものだ。
芸能プロによっては、こうした過程の中で暴力団に“つけ込む余地”を与えてしまう。韓国の芸能プロ関係者が話す。
「アジアの韓流ブームで芸能界のパイが拡大し、小さな事務所でもスターをひとり育てれば一攫千金を実現できるようになった。そのため既存プロダクションのマネジャーたちは、ほんの数年の経験で独立することが珍しくありません。
とは言え、綿密に事業計画を練るよりは勢いを重視する気風が強いため、そうした零細業者の資金的な裏づけは弱い。そこに、暴力団がスポンサーとして登場して株を握り、上場後に株価が吊り上がったところで売却するのです」
その際、芸能プロ側は暴力団に対し、ひとつ重要な責任を負うことになる。タレントに対する絶対的な支配である。
タレントに超長期かつ不公正な契約を強いる韓国の「奴隷契約」問題は、すでに日本でも知られている。最近では所属事務所を飛び出し、訴訟を起こすタレントも散見されるが、これは事務所である芸能プロにとって死活問題だ。稼ぎ頭の人気者を失えば収益が減るだけでなく、株価へのダメージも大きい。
たとえばある芸能プロの場合、タレントからの提訴を受けて、4400ウォン台だった株価が3分の1も下落。そうかと思うと、他のグループの日本進出が成功した今は4万ウォン台に乗せている。
稼ぎ頭をいかに支配するかが勝負の分かれ目そんな「現実認識」の下、プロダクションは甘言を弄し、あるいは私生活上の弱みをネタに、タレントや候補生に奴隷契約へのサインを迫るのだ。渋るようなら、「事務所のバック」として暴力団が顔を覗かせ、睨みを利かせることもある。
今、日本でも人気を博している一部の韓流スターの背後にも、こうした韓国暴力団の影がちらつく。
典型的なのが、俳優クォン・サンウに対する脅迫事件。有力暴力団の関係者とされるクォンの元マネジャーは、「自分と専属契約を結ばなければスキャンダルを暴露する」と脅した上、「約束を破れば10億ウォンを支払う」という覚書を強制的に書かせたことで2007年に逮捕された。
最近ではほかにも、日本でもよく知られた歌手兼俳優の個人事務所が、アングラ勢力の仕手戦で食い物にされる出来事があった。結局その事務所は、大手芸能プロが裏口上場する際の踏み台にされたが、アングラ勢力との関係が清算されたかどうかは不透明だ。
韓国芸能界にはなおも、暴力団スキャンダルの火種がくすぶり続けている。
※SAPIO2011年10月26日号