野田内閣が推し進める増税と年金支給年齢の引き上げ。7月に閣議了解された『社会保障と税の一体改革案』では、現在65歳の年金支給開始年齢を「68~70歳」へ引き上げることが盛り込まれており、小宮山洋子・厚労相は、早速、社会保障審議会年金部会に具体案を提示して最大70歳支給への制度改革の検討を指示した。
今回の年金改訂で見逃せないのは、「世代間格差」が大きく広がることだ。
すでに年金支給を受けている「団塊の世代」より上の年齢層は多額の年金で老後の生活を保障される。対して、現役サラリーマン世代は給料から天引きされる年金保険料より受け取る年金額が少ないという「払い損現象」が起きる。
厚労省が5年ごとに行なっている年金の財政検証(2009年版)の平均モデルで比較すると、現在75歳の厚生年金受給者は、サラリーマン時代に総額1800万円(労使合計)の保険料を支払い、平均寿命までに総額5600万円の年金を受け取ることができる。年金給付倍率は「3.25倍」だ。
65歳の場合も、保険料2400万円支払って年金は4700万円。給付倍率は約2倍で、まだ得する世代であることがわかる。
だが、50歳代から下は改悪のあおりをモロに受ける。例えば55歳のサラリーマンは、現行制度なら3600万円の保険料に対して年金総額は5100万円とやや上回る(1.45倍)ものの、即「70歳支給」に切り替えられたとすると、そこから1000万円ほど減額され、年金総額は4100万円まで下がる計算になる。
現在45歳の現役サラリーマンが損得分岐点に立っている世代だ。保険料4800万円で受給額は5900万円(1.15倍)だが、70歳支給になると4900万円に減り、保険料を“タンス預金”したのとほとんど変わらなくなる。
この世代より下は確実に払い損になる。
なぜ、給付倍率に大きな格差が生まれるのか。
現在45歳のサラリーマンが社会に出た1985年に、基礎年金制度が導入され、20歳以上の国民全員が強制的に年金に加入することになった。専業主婦の第3号被保険者制度(配偶者が厚生年金や共済組合に加入している専業主婦は保険料を払わない国民年金第3号被保険者として取り扱われる制度)もこのとき始まった。
ちょうどその年に退職した世代(現在85歳)の厚生年金支給額は、平均加入期間32年で夫婦合わせて月額17万3100円。現役時代の平均月収の68%に達していた。今より多い。それほど支給基準が高かった。
制度がそのままであれば、当時の新入社員(現在45歳)が40年勤務して定年を迎えるとき、夫婦(妻が国民年金40年加入の場合)合わせると現役時代の平均月収の108%の年金をもらえて悠々自適の生活が約束されていた。それが現実には、官僚の手で現役時代月収の4割にまで落ち込んだ。
年金制度に詳しい社会保険労務士の北村庄吾氏はこう指摘する。
「現在の70~80代は“年金天国”です。そのしわ寄せがすべて現役世代にツケ回しされた。企業では退職年金などの財政が悪化すると、現役社員だけではなく、OBの年金支給額を減らして公平に負担するやり方が行なわれているのに、公的年金は世代間の負担の公平が全くない。
理由は選挙です。現在の年金受給者は団塊の世代を中心にざっと3500万人いる。年金額を減らすといえば、その政権は猛反発を受ける。だから時の政権は高齢者を優遇し、投票率の低い若い世代を虐げる。今回の70歳支給はその最たるものです」
年金財政が豊かだった時代は自民党政権が年金をかさ上げして高齢者の票を買い、年金財政が悪化すると民主党は若い世代の負担で高齢者世代の年金を守ってやはり票を買う。
その結果、現役世代は高齢者の年金を負担するのに加えて、自分たちの世代の年金まで二重に負担させられるのである。
※週刊ポスト2011年11月4日号