野田内閣が推し進める増税と年金支給年齢の引き上げ。閣議了解された『社会保障と税の一体改革案』では、現在65歳の年金支給開始年齢を「68~70歳」へ引き上げることが盛り込まれており、小宮山洋子・厚労相は、社会保障審議会年金部会に具体案を提示して最大70歳支給への制度改革の検討を指示した。
政府は国民からどのくらいの年金を奪おうとしているのか。「年金博士」こと北村庄吾氏(社会保険労務士)が試算した(※)。
たとえば、夫45歳、妻43歳の夫婦のケースではどうか。夫はサラリーマンで生涯の平均月収は35万円。すると、現行案のままなら2477万円の年金をもらえるが、「70歳に前倒し引き上げ」が行なわれると受け取れる年金額は1651万円になり、825万円カットされる。
妻は35歳で結婚し、それ以降は専業主婦とする。こちらの年金は、改悪が行なわれなければ2230万円を得られるが、「70歳に前倒し引き上げ」が行なわれると1723万円になり506万円も減額される。夫婦合わせると、1331万円減る計算になる。
共働きの夫婦の場合、さらに打撃が大きい。48歳で平均月収45万円の夫は、「70歳に前倒し引き上げ案」だと947万円も年金額が減る。妻は44歳で厚生年金に入っており、60歳の定年まで働くものとする。改訂により年金額は825万円減り、夫婦で合計1772万円も減額される。働く者、本来は多くの年金を受け取れるはずだった者ほど収奪される仕組みであることが一目瞭然だ。
※総受給額は男性は平均寿命の79歳まで、女性は平均寿命の86歳まで生きた場合を想定。基礎年金は40年間保険料を納付したものとして試算し、1000円以下を切り捨て。実際の年金にはこれに厚生年金基金や加給年金が付加されることがある。
※週刊ポスト2011年11月4日号