京都世田谷区の民家で見つかった「放射能ビン」騒動は、当初、“東京ですごいホットスポットが見つかった”と、市民運動家や反原発団体を大騒ぎさせた。結局は民家の床下にあったラジウムの瓶が原因だった。
今の日本で本当に怖いのは、放射能ではなく、放射能ノイローゼと放射能デマかもしれない。煽り派メディアでは、いまだに学会で相手にされない“活動家学者”や、専門の学位すらない“似非学者”が登場しては「日本はもうダメ」「みんながんになる」と脅す。多くの科学者はうんざりして無視しているが、一般国民には誰が本当の専門家なのか、どれが信用できる意見なのか区別しにくいから厄介だ。
ついには「福島で起きた水素爆発は核爆発と基本的に同じだ」とか「チェルノブイリを超える被曝をしている」などという荒唐無稽なデマまでが、一部の狂信的な団体やジャーナリストに支持される始末である。
これは社会心理学でいう「集団極性化」「集団思考」が現実になった憂うべき状態だ。新潟青陵大学大学院の碓井真史・教授(臨床心理学研究科)が警告する。
「もともと集まった動機は悪くなくても、集団で討議しているうちに当初の意見がどんどん過激に、強くなり、極端に走るのが集団極性化です。しかも、外に反対の意見をいう“敵”がいると激しく非難し、自分たちに従わない者たちも攻撃対象にして結束を強めていく。それが集団思考です。
子供を放射能から守りたい、という発端は間違っていなかったとしても、次第に多くの意見のなかから最も過激な『危険だ』という声だけを信じるようになり、『大丈夫ですよ』という学者やメディアに“御用学者”“安全デマ”などと攻撃を加えていく。後から見れば、あの時はヒステリックになってたね、と笑えることかもしれませんが、この構造はカルト宗教やナチスにも通じるものであるだけに十分な警戒が必要です」
ある母親のネットワークは、行政や流通業界に対して「西日本の野菜だけを食べさせろ」、「どんな小さな放射能でもがんになるというのが世界の常識」などと主張している。
※週刊ポスト2011年11月4日号