山口組の司忍組長は産経新聞のインタビューに対し、「暴力団排除キャンペーンで警察OBの仕事が増える」といった趣旨の発言をした。果たしてこれは本当なのか。
暴力団排除キャンペーンと天下り先増加の相関を明らかにすべく、本誌は警察庁OBの過去2年間(2008年12月31日~11年3月31日)の「再就職リスト」を入手し、検証してみた。なお、この時期は、暴力団排除を強く打ち出した安藤前長官の在任期間と重なっている。
まず資料からはキャリア組54件、地方警務官組(都道府県警察の職員のうち警視正以上の階級のもの)の456件、合わせて510件の再就職先を確認できる。財団法人や大手メーカー、大使館、電力会社に大手金融機関など多岐にわたる。このうち民間企業への再就職は計258件だ。
1990年代後半まで警察庁に在籍した元キャリアが、このリストを見ながらいう。
「もともと警察庁は財務省、経産省と並んで採用時に人気がありましたが、それは民間の天下り先が豊富にあることも大きい。でも、かつてより引き受け手のバリエーションは確実に増えている。少なくとも外資系に天下るケースなんてほとんどありませんでした。
私が聞いている限り、ここ5年間で4人のキャリアが外資に再就職している(本誌注:アクサ生命、プルデンシャル生命、リーマン・ブラザーズ証券〈2008年9月破たん〉、アメリカンファミリー生命)。日本という特殊な地盤で商いを行なうには警察OBをリクルートするのが最善の策だと判断したんでしょう。トラブルがあって当局から事情をきかれた際、窓口として警察OBがいればなにかと楽ですからね」
ただ、ある外資系金融機関に再就職した元警察官僚は、苦笑まじりにこう話す。
「トラブル解決のために雇われたといっても、普段は暇でゴルフ三昧です。出社してもお茶を飲んで新聞を読むだけしか仕事がない(笑い)。最近、唯一仕事をしたのは、会社主催の大きなイベントがあった際、会場前の混雑を回避するために交通整理の指揮をとったことぐらいでしょうか」
外資系に再就職したこの男性に限らず、天下り先の民間企業での通常業務は比較的、暇なケースが多い。現在はメーカーに勤務する警察OBは正直に語った。
「真面目にやろうにも仕事がないんですよ(笑い)。株主総会もこのご時世だと荒れませんしね。私の友人は、現役時代に付き合いのあった右翼幹部に『うちの会社にも街宣をかけてくれと頼んだ』なんて本気だか、冗談だかわからないことまで口走っていましたよ」
2年前に、警察OBを雇用したという東京の大手総合病院経営者も、声を潜めながらいう。
「一時期、入院患者に組員がいて個室を要求したりナースにちょっかいをかけるなんてことが続いたんで、警察OBの方を雇用したんです。でも仕事といっても組員が退院してしまえば駐輪場の整理ぐらいで何もない。組員がきても向こうは警察OBのことをただの事務方だと思っているからまったく効果がなくてね。結局、警察手帳がないと何の役にも立たないんですよ」
※週刊ポスト2011年11月4日号