ギリシャの財政問題に端を発するユーロ危機。1997年、旧大蔵省の証券業務課長時代に山一証券の処理に携わり、2008年にはIMF(国際通貨基金)日本代表理事としてリーマン・ショックの対応にあたった小手川大助氏(60)が、ユーロ危機の本質と日本が取るべき対応について直言する。
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実際にギリシャがデフォルト(債務不履行)すれば、同じく債務問題を抱えるイタリア、スペインに危機が波及する。両国合わせて2兆2000億ユーロの債務を抱えており、この2国が倒れるとヨーロッパの金融危機が雪崩を打って拡大し、世界同時不況に陥りかねない。
こうした最悪の事態を防ぐにはどうすればいいか。それを検討するには、なぜユーロ危機が生じたかを理解しておく必要がある。ユーロ危機はギリシャなどの放漫財政ばかりが原因として論じられているが、それだけでは本質は見えてこない。
実は、ユーロ危機の背景には、英米当局が2008年のリーマン・ショックの処理を失敗したことがある。私が大蔵省の証券業務課長だった1997年秋に破綻した山一証券と比べてみよう。
実はこの時、日本当局は、破綻を正式表明する11月24日(月曜日)までの週末の間に山一絡みの海外取引をすべて解消していた。「日本が世界恐慌の発火点となってはいけない」という考えからだ。結果として日本だけが不況になったが、何も手を打たずに清算していたら、世界が壊滅的な影響を被っていたはずだ。
一方、リーマン処理では、破綻表明寸前の2008年9月12日(金曜日)に米当局はバンクオブアメリカによるリーマン買収を画策したが奏功せず、慌ててリーマンの大株主だった英バークレイズに声をかけたが、頓挫。結局、週明けの月曜日にリーマン・ショックは世界中に飛び火した。
この時、米英当局は時間稼ぎしてでも海外取引を解消しておくべきだった。当時の英ブラウン首相や米ブッシュ大統領、ポールソン財務長官、ガイトナーNY連銀総裁には重大な責任がある。
破綻後の対応も間違った。
公的資本注入のできるファンドや不良債権の処理スキームを創設したのはよかったのだが、その“使い方”に失敗をしたのだ。本来、「これ以上、膿は出ない」というところまで金融機関の財務内容を徹底的に調べて公表し、責任も取らせた上で必要十分な公的資金を入れるという手順を踏むべきだが、それを怠って不十分な公的資金を投入したため、金融機関の財務状態は不健全なまま取り残された。
しかも資本注入を受けた金融機関は“健康になった”と開き直って、誰も責任を取らなかった。現在、全米で広がる「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」というデモ活動は、金融機関のモラルハザード(倫理の欠如)への怒りが爆発したためだ。
世界的な金融機関は、「もう財務体質はよくなった」と主張しているが、市場関係者は皆、実は“傷だらけ”で財務体質が悪いのを知っていて、疑心暗鬼になっている。
※SAPIO2011年11月16日号