毎朝放映中のNHK連続テレビ小説『カーネーション』の視聴率が好調だ。人気の秘密は? 作家で五感生活研究所の山下柚実氏は、岸和田だんじりオヤジを演じる小林薫に注目する。以下は、山下氏の視点だ。
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今一番、父親像としてもっとも魅力的な男優は? と聞かれたら、迷わず真っ先にあげたくなるのが、小林薫の名前です。
毎朝放映中のNHK連続テレビ小説『カーネーション』。
ファッションデザイナー、コシノヒロコ・ジュンコ・ミチコ3姉妹を育てた母親、小篠綾子の人生を描く大正~昭和の物語。初回の視聴率16.1%からスタートし、じわじわと視聴率が上がってきている、話題のドラマです。
中でもピカ一なのが、コテコテの岸和田だんじりオヤジを演じる小林薫。その「ドヤし顔」がすごい。眉間にシワを寄せて「オリャー」と怒鳴ると、こっちのり胸がすうっとすく。
迷い無く思い切りのよいセリフまわし、頑固と気弱が同居する庶民的な呉服屋のオヤジを、実にリアルに演じています。
「どや顔」といえば、一般的には関西弁の「どうや?」から生まれた「得意げな顔」「したりげな顔」の意味で使われていますが、小林薫の場合、ドヤす顔、「ドヤし顔」が人を惹きつけて魅力的です。
若い頃は唐十郎の状況劇場に参加し、りりしく美しい二枚目ながら妖しいアングラ・テント芝居を演じきった、伝説の役者。その小林薫が今、まるで清原和博にダブッて見えてくるから、すごい演技力。
このドラマの人気の秘密は他にもあります。
大正~昭和初期の大阪のまちという「異空間」を衣装、岸和田弁のイントネーション、祭りや路地の風俗、陰影を強調した照明、セットの作り含めて、細部にいたって実によく立ち上がらせている点でしょう。
視聴者は思わず、過去のまち空間に引きずりこまれてしまうのです。
だからこそ、一つ残念なこと。それは、ドラマ『カーネーション』が終わったとたん、余韻にひたる間もなく、次の番組『あさイチ』に切り替わってしまうことです。
先日は「セックスレス」特集で賛否両論、大沸騰した、あのベタな番組に。その冒頭でいちいち今日の「カーネーション」の中味についての陳腐な感想を、司会のイノッチや有働アナがしゃべるのも困ります。
なぜなら視聴者は、昭和の岸和田の異空間に浸り、その芝居世界を楽しんでいるのです。もっともっとドラマの余韻に浸っていたい。それなのに、二つの番組を接続させる構成によって、背中に冷水を浴びせられ、たちまち日常へと無理矢理引き戻されてしまうからです。
いったい誰が、この地続きの構成を考えたのでしょうか。とても視聴者サービスとは思えません。