白澤卓二氏は1958年生まれ。順天堂大学大学院医学研究科・加齢制御医学講座教授。アンチエイジングの第一人者として著書やテレビ出演も多い白澤氏によると、不妊症の原因となる男性の精子異常には、ビタミンD不足が関係あるという。
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コペンハーゲン大学、発達・生殖科のマーティン・ブロンベルグ・ジェンセン博士らは最近、健康な男性300人を対象に精子の運動能力と血中ビタミンDの関係を明らかにし、医学雑誌『ヒト生殖医学』にその結果を発表した。
博士らの研究によると血中のビタミンD濃度が高ければ高いほど、精子の運動が活発で正常な形態の精子が多く観察された。精子にはビタミンD受容体があることから、精子に活性型ビタミンDを添加すると、精子の運動能力が改善することを試験管内で確認した。
ジェンセン博士は調査したデンマークの健常人男性の約44%がビタミンD不足(25(OH)ビタミンDの血中濃度が50ナノモル/リットル以下)だったことを強調、ビタミンD不足がデンマークにおける高い不妊率の要因の一つになっている可能性を示唆したのである。
しかしながら、今回の研究が直ちに、不妊カップルの男性にビタミンDサプリメントを推奨するものではないとの警鐘も鳴らしている。興味深いことに東京のあるアンチエイジングクリニックでも、日本人の健常人の4割程度がビタミンD不足との調査結果が得られていることから、日本でも同様にビタミンD不足が男性不妊の要因の一つになっている可能性がある。
ビタミンDは紫外線を受けて皮膚で合成されるので、外出して日光浴することが重要であるが、秋から冬にかけては紫外線も弱くなり、血中のビタミンD濃度が低下することが知られている。ビタミンDは骨だけではなく、免疫、筋肉、脳機能を健康に保つ重要なビタミンで、体内調節システムとして働くホルモンのような作用があることが最近明らかとなった。
ビタミンDが豊富に含まれるアン肝、サーモン、しらす干しなどの魚類や、きくらげ、干ししいたけなどの食材を摂取することでもビタミンD不足を予防できる。これまで男性不妊には、ビタミンE、ビタミンB12、亜鉛、セレン、アルギニンなどの栄養素が推奨されてきたが、ビタミンDも必要な栄養素のリストに加えたい。
※週刊ポスト2011年11月4日号