死亡説まで出ていた中国の江沢民・前国家副主席(85)が10月9日、北京で行なわれた辛亥革命100周年記念式典に姿を現し、世界中の注目を浴びたが、江氏の命を助けたのが北京にある中国人民解放軍総病院(301病院)に勤務するハーバード大メディカルスクールへの留学経験もあるエリート医師だったことが分かった。
江氏はもともと心臓病の持病もちで、心臓発作に襲われることもあったことから、江氏の周辺には24時間体制で医師や看護師などの医療団が常駐していた。ところが、今年6月1日の深夜、上海の自宅で、心筋梗塞を発症し、急激に容体が悪化した。医師団が治療に当たったが、心臓の一部に壊死が見られた。医師団の懸命の治療で、小康状態を保ったという。
このままでは死亡の危険性もあるため、医師団は小康状態の江氏を北京の301病院に移送することにした。
江氏が北京の首都国際空港に到着したのが3日午後4時ごろで、人民解放軍が緊急配備を敷いて、周辺の道路を封鎖し、数台の警察車両に先導された軍ナンバーのアウディや救急車が疾走。軍ナンバーの車両は20台ほど続いたという。
北京の幹線道路で、301医院に面している長安街は完全に封鎖され、長安街を通るバスは30分前から停車させられ、さらにその他のバスは医院を迂回させられたほか、長安街には私服の解放軍兵士が数メートルごとに歩哨に立つという物々しさだった。
江氏が運ばれたのは、301病院のなかでもVIPが入院する「元帥楼」と呼ばれる建物で、かつては最高実力者の鄧小平氏や長老指導者の陳雲氏などが入院し、最後を迎えた特別病棟だ。中国の中でも最先端医療機器や設備を集めた元帥楼は、中国共産党の政治局常務委員クラスの一握りの最高幹部しか治療を受けられない医療施設としても知られている。
病院自体は総ベッド数が4000床以上もあり、中国全土から難病や重病患者が集まるが、あくまでも軍や党の最高幹部のために建設された病院なのだ。
このため、医師は中国はおろか、世界でも最高水準の技術をもつエリート医師が集められている。看護師も日本や欧米の一流病院で研修を受けた優秀な者しか採用されないほどだ。
江氏の手術を担当したのは、1992年に心筋梗塞で倒れ「重篤」と伝えられた当時の李鵬首相の命を助けた医師。20数年ほど前、ハーバード大のメディカルスクールに留学した経験を持つ。
江氏の症状は典型的な心筋梗塞だったため、動脈を回復させ、血流を元に戻すという治療によって、江氏はほぼ1か月で回復したという。
その後、江氏は医師とともに、避暑地として有名な河北省北戴河(ほくたいが)で避暑を兼ねて、リハビリを行なった。9月初旬には再び301病院の戻り、心臓を中心に身体全体のチェックを行なった結果、「異常なし」との診断を受けて、自宅に戻り、静養に努めたという。
そして、江氏は10月9日の辛亥革命100周年記念式典で公の場にほぼ10か月ぶりに姿を現したというわけだ。とはいえ、江氏は歩く際、男性秘書2人に腕や腰を支えられていたことや、顔面は青白く、明らかに病み上がりであることが分かる状態で、北京の共産党筋は「次に再発すれば、そのときは江氏がマルクスに会いに行くときだけに、予断を許さない状況だ」と指摘する。