厚生労働省の「年金改悪」計画が加速している。
支給開始年齢の「70歳」への引き上げに猛烈な批判が起きると、10月26日、小宮山洋子・厚労相は「来年法案を出すわけではない」と撤回の姿勢を見せ、かわりに厚生年金保険料の限度額アップの検討を始めた。
サラリーマンの給料から天引きされる年金保険料は収入(標準報酬月額)に応じて計算され、現在、上限は月額10万1800円(労使合計)。それを約2倍の19万8600円まで引き上げるというものだ。値上げ対象者は月収約62万円以上のサラリーマンで、全国で235万人に上る。
「高給取りには応分の負担をしてもらう」といえば、低所得者の賛同を得やすい。国民の年金批判が官僚に向かわないように、国民を分断して改革案をのませる官僚の常套手段だ。
その裏には、「時間差改悪」の狙いがある。
「年金支給開始年齢の引き上げは段階的に行なわれており、まだ65歳支給の完全実施には時間がかかる。70歳支給の法案の提出が1~2年先送りされてもスケジュールに支障はない」(厚労省幹部)
というのが年金官僚の読みだ。先に高所得のサラリーマンの保険料を大幅に上げ、年金受給額も増やすと約束したうえで、次に70歳支給を導入する。そうすれば、年金官僚は保険料増収に加えて、将来、5年分の年金を払わなくてすむ。「国民は太らせてから食え」という、これも何度も繰り返された霞が関の狡知である。
※週刊ポスト2011年11月11日号