9月22日、米議会で米軍制服組トップの爆弾証言が飛び出した。頻発するタリバンのテロについて「パキスタンの情報機関ISIが支援している」と明言したのだ。パキスタン政府は猛反発。米パの緊張は一気に高まった。その直後、国際政治アナリスト・菅原出氏は、ISI(パキスタン軍統合情報局)の“ドン”に直撃するため、パキスタンに飛んだ。
ISIの“ドン”とされるのはハミド・グル将軍である。グル将軍は、冷戦末期の1987年から1989年までISIの長官を務め、当時のCIA(米中央情報局)の工作、ムジャヒディン(聖戦戦士)支援からタリバンの育成、今日のアフガン戦争に至るまで諜報戦争の裏の裏を知り尽くした人物である。しかも74歳になる今もパキスタン軍に絶大なる影響力を持ち、同国における反米強硬派の黒幕として知られている。以下は、菅原氏によるインタビューである。
* * *
――アフガニスタンのカルザイ政権はタリバンとの和平を進めようとしていたが、高等和平評議会の議長を務めたラバニ元大統領が9月20日、暗殺された。
「ラバニ元大統領の暗殺について、これから真実を語ろう。私とラバニ元大統領とは古くからの友人だ。先日彼がイスラマバードを訪問した時に、私はラバニ元大統領と一対一で会って話をした。彼とは何度も会っているが一対一で会ったのはこれが初めてだった。
彼は『タリバンにアフガン政府に加わって欲しい』と提案・接触してきたのだよ。『タリバンとの戦争を終わりにして政府に入って欲しい、だからタリバンと仲介して欲しい』と私のところに頼みに来たのだ。ラバニ元大統領はこう言った。『われわれはタリバンと一緒に米国をこのアフガニスタンの地から追い出したい。一緒に手を携えて米軍基地をなくし、彼らをアフガニスタンから追い出そう』、と。
その直後にラバニ元大統領はあの通り殺害されてしまったのだ。誰が元大統領を暗殺したのか、わかるだろう?」
――これからさらに米国が圧力をかけてきたら、パキスタンはどう対応するのか?
「パキスタンが米国の圧力に対抗する手段はいくつもある。まず、『パキスタンはもう米国の対テロ戦争には協力しない、完全に撤退する』と宣言してしまう道だ。次にアフガニスタンで軍事作戦を行なっている米軍やNATO軍向けの補給ルートを閉鎖することもできるだろう。彼らは中央アジアを通じた北部ルートを使うことが可能だが、これはパキスタン・ルートに比べればはるかに費用がかかる。ただでさえ戦費を削減しなくてはならないのに、これ以上北部ルートを使うことはできまい。
次に米軍が特殊部隊のような小規模部隊をパキスタン国内に送ってきた時のことを考えてみよう。北ワジリスタン(パキスタン北西部の地域)の部族は、無人機によるミサイル攻撃に頭にきているから、小規模の米軍が入ってくることを待ち構えているだろう。連中は喜んで応戦するつもりだ。パキスタンはさまざまな政治的な意見の違いによって分裂傾向が激しい国だが、彼らの侵略があれば、挙国一致で抵抗するであろう」
※SAPIO2011年11月16日号