介護報酬不正受給――介護サービスを提供していた「コムスン」は2007年、介護報酬の不正請求や事業所指定の不正取得を行っていたとして、厚労省の処分を受けてすべての事業を譲渡した。最近では、10月に愛知県に本部を置く医療法人が5年間で20億円以上にのぼる介護報酬を不正に受給していたことが発覚している。
著書『女医が教える本当に気持ちのいいセックス』(ブックマン社)がベストセラーとなった産婦人科専門医の宋美玄さんと、医療ジャーナリストの熊田梨恵さん。医療の最前線にいるふたりが、介護職の不遇について語り合う。
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宋:「コムスン問題」(※)が騒動になったときに介護職の待遇が悪いという話が出てきたような気がするんですけど、実際はどうなんですか?
熊田:あの事件をきっかけに、介護職の待遇の悪さが露呈したんですよね。介護は人の命を預かる責任の重い仕事であるにもかかわらず、他業界に比べて給料が低い、社会からの評価も低いのが問題といわれます。平成22年度の一般労働者の平均賃金は男女合わせて29万6200円でしたが、介護職員は19万6142円と、約10万円低くなっています。
宋:それはかなりの差やないですか。以前テレビで「介護職では結婚して家族を養えない」という男性職員を見ましたけど、やはり現実は相当厳しいんですなあ…。
熊田:これでも国はさまざまな改善策を行ってきているんです。2009年度の介護報酬改定では介護職の給与を上げるために介護報酬をアップしたり、介護職の賃金を上げる事業所に交付金を支給したりしているんです。
宋:それだけやってもこの現状、というのは何が問題なんですかね。
熊田:介護保険サービスにかかっているお金を「介護給付費」というのですが、保険給付、公費負担、利用者負担の合計になります。これが介護保険制度の発足した2000年当時は3.6兆円だったのに、昨年度は7兆円を超しているんですよ。
高齢化と制度の普及に伴って、10年で倍増です。介護保険の利用者負担は1割なので、ほとんどが国や自治体のお金です。国はそもそも社会保障費全体を抑えたいので、介護のお金が増え続けたら困るわけです。また、国が決める介護報酬は事業所にはいるお金なので、介護報酬がアップしても運転資金に回されたら職員まではいきわたりません。
宋:介護事業所の経営が相当潤沢になるか、他のインセンティブ(動機づけ、意欲の刺激)が働かなければ職員の給与アップには結びつきにくいっちゅうわけですな。医療現場とまったく同じやないですか。国が社会保障費を抑えることで、現場の職員が疲弊している。やっぱり皆さんの“やる気”でなんとか保たれているわけなんでしょう?
熊田:実態調査を見ても、介護職員がこの仕事を選んだ理由は「働きがいがある」、「人や社会の役に立ちたい」などが上位を占めます。ところが悩みを聞くと「仕事内容の割に賃金が低い」が約半数、「(仕事への)社会的評価が低い」も約3割です。本人はやりがいを持って仕事に就いても、その評価がないと感じることでモチベーションが下がってしまってるんです。結果的に介護職は人の入れ替わりが激しく、短期間でやめる人が多くいます。年中求人広告を出している事業所もありますからね。
※2007年、介護サービスを提供していた「コムスン」は介護報酬の不正請求や事業所指定の不正取得を行っていたとして、厚労省の処分を受けてすべての事業を譲渡した。
※女性セブン2011年11月10日号