厚生労働省が年金の支給開始年齢を現行の65歳から68~70歳への引き上げを検討していることは大きな議論を呼んでいる。さらに、将来的には75歳にまで引き上げることを画策しているとの指摘もある。
総務省の調査によると、現在、65歳以上の高齢者世帯(約2980万人)の6割は年金収入だけに頼って生活している。国民年金は満額支給されても1人6万5000円。そこから介護保険料や健康保険料を天引きされる。そのうえ、60代になると病院にかかる頻度が増え、60代後半の1人あたり医療費は50代前半の2倍にハネ上がる。
60代後半の一人暮らしの男性の話を聞いた。
「65歳まで清掃のアルバイトがあったが、今はシルバー人材センターから回ってくる道路の落ち葉清掃などで小遣い程度の収入があるだけです。年金から健康保険料は引かれていますが、窓口の料金が高いから風邪くらいでは医者にかからないようにしている」
年金制度の歴史と実務の両面に詳しい年金博士・北村庄吾氏(社会保険労務士)が民間サラリーマンから見た「75歳受給の収支」を試算した。
今年の新入社員が70歳まで50年間、年金保険料を支払うと、総額約4200万円になる(現役時代の平均報酬月額を40万円として試算)。それに対して75歳から平均寿命までの5年間に受け取る年金の総額は約1000万円。元を取るにはなんと96歳まで生きなければならない。これが75歳受給の現実なのである。
※週刊ポスト2011年11月11日号