日本航空(JAL)破綻の際には、しばしば「国民負担」という言葉が飛び交った。これは一体なんなのか? その意味を東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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だれでも知っているような大企業の破綻に際して、しばしば国民負担という言葉が飛び交う。最近でも日本航空(JAL)について記事があった。
「経営再建中の日本航空に対し、破綻前の2009年6月に行われた政府保証付きの公的融資670億円のうち470億円が国民負担として確定していたことが、会計検査院の検査でわかった」(10月17日付の読売新聞)。
国民負担とは、どういう意味か。記事は続けてこう書いている。
「融資したのは、国が100%出資している『日本政策投資銀行』。すでに経営が悪化していた日航に対し、民間金融機関とともに総額1000億円を貸し付けた。このうち政投銀分の670億円については、国が『日本政策金融公庫』を通じて最大8割の損失補償(政府保証)をしており、無担保融資だった」
言うまでもなく、JALは民間企業である。倒産したところで全日空(ANA)など民間航空会社や鉄道もある。国民の足が不便になるわけでもないのに、なぜ国=財務省が支援したのか。それには政投銀の代表取締役副社長に天下っていた藤井秀人元財務事務次官のポストが絡んでいる。
もしも政投銀が独自判断で巨額資金を融資したとなると、破綻した場合、直ちに副社長の経営責任が問われる。最悪の場合、天下りポストを失う結果になってしまう。そこで国が政府保証をつけておけば、破綻しても「あれは国策だった。やむをえない損失」と言い逃れできるのだ。それで経営責任がうやむやになり、財務省としては副社長ポストを維持できる。
本来であれば、そもそも国がJALを救済する理由があるかどうかが肝心なのに、財務官僚の手にかかると、天下りポストの維持がはるかに重要になってしまう。政策よりも既得権益を優先させた典型である。
1000億円融資に絡んだ政府保証問題は、当時の菅直人首相が藤井副社長に「そんなに政府保証が欲しければ、辞表を持ってこい」と怒鳴り上げた一件でも霞が関の話題になった。藤井はいまも副社長に残っている。国が支援してもJALは結局破綻し、巨額の国民負担が生じた。財務省は税金で天下りポストを死守した形だ。
※週刊ポスト2011年11月11日号