国内

ワクチン問題でモメるポリオ ここ10年で15人が罹患

全国の乳幼児を抱える家庭で、ポリオ(※1)の「ワクチン・パニック」が起きていることをご存じだろうか。ほとんどの国が使用をやめた「生ワクチン」を、日本だけが集団接種し続けているため、なんと2割もの子供が接種を受けずに感染の危険に晒されているのである。

ジャーナリストから神奈川県知事に転身した黒岩祐治氏は、公然と国に反旗を翻し、神奈川だけの独自策を発表した。このケンカ、国を動かすことになるのか、それとも霞が関の力ずくの圧力に屈するか。黒岩氏が「国にケンカを売った理由」を説明する。

* * *
私は神奈川県独自にポリオの不活化ワクチンを輸入して、希望する県民に接種することを決めた。これに対し、小宮山洋子・厚生労働大臣が「予防接種行政上、好ましいことだとは思わない」と批判してきた。私は小宮山氏個人に悪い感情はないが、彼女が進めようとしている予防接種行政こそ、「国民にとって好ましくない」と申し上げたい。

日本は生ポリオワクチンの乳幼児への集団接種を実施している(※2)。生ワクチンは病原性を弱めたウィルスが入っているため、受けた人の中に稀にポリオに罹ってしまう人がいる。最近の10年間で15人が認定されており、100万人に約1.4人とされている。

一方、日本では未承認の不活化ワクチンは、殺したウィルスから作られているため、「ウィルスとしての働きはなく、ポリオと同様の症状が出る副反応はない」と厚労省も認めている。この事実を知る親は、不活化ワクチンの接種を希望するに違いない。ところが、日本ではまだ、ポリオを発症する可能性のある生ワクチンの接種を続けているのである。

患者団体である「ポリオの会」が作った世界地図を拡げてみれば、日本がいかに遅れているか一目瞭然である。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリア、韓国など、先進国は不活化ワクチンを採用している。中国、インド、ブラジルも不活化への切り替え中で、未だに生ワクチンを使用しているのは、南アフリカを除くアフリカ、モンゴル、北朝鮮などに限られている。

日本で不活化ワクチンを打つためには、医師が海外から個人輸入したものを自費で接種しなければならない。負担は1回5000~6000円で、4回接種が必要である。しかも未承認薬のため、万が一、副反応事故が起きた場合も国の救済制度は適用されない。

これまで患者団体などは不活化ワクチンの早期導入を求めてきたが、国は全く動こうとしなかった。最近になってようやく導入の方向性を打ち出したが、早くても12年度の終わりごろという。少なくともあと1年半は今のままの状態が続くことになる。

(※1)ポリオ/急性灰白髄炎とも呼ばれる。ポリオウィルスによって脊髄の灰白質が炎症を起こし、発熱や意識障害の後、腕や下肢がまひすることがある。5歳以下の乳幼児の感染がほとんどだが、大人でも発症する。まひや筋力低下が回復せず深刻な後遺症となるケースもある。小児の死亡率は2~5%に上る。

(※2)予防接種法は定期接種と任意接種に分けられる。ポリオは定期接種で料金は無料。事故が起きた際には国が補償することが同法で定められている。生後3か月から7歳6か月までの間に計画実施する。多くの行政機関では、春・秋の2度に分けて接種を行なっている。

※週刊ポスト2011年11月11日号

関連記事

トピックス

沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
ゴールデンタイムでの地上波冠番組がスタートするSixTONES
ゴールデンタイムで冠番組スタートのSixTONES メンバー個々のキャラが確立、あらゆるジャンルで高評価…「国民的グループ」へと開花する春
女性セブン
中居正広氏とフジテレビ社屋(時事通信フォト)
【被害女性Aさん フジ問題で独占告白】「理不尽な思いをしている方がたくさん…」彼女はいま何を思い、何を求めるのか
週刊ポスト
食道がんであることを公表した石橋貴明、元妻の鈴木保奈美は沈黙を貫いている(左/Instagramより)
《食道がん公表のとんねるず・石橋貴明(63)》社長と所属女優として沈黙貫く元妻の鈴木保奈美との距離感、長女との確執乗り越え…「初孫抱いて見せていた笑顔」
NEWSポストセブン
生活を“ふつう”に送りたいだけなのに(写真/イメージマート)
【パニックで頬を何度も殴り…】発達障害の女子高生に「生徒や教員の安心が確保できない」と自主退学を勧告、《合理的配慮》の限界とは
NEWSポストセブン
5人での再始動にファンからは歓喜の声が上がった
《RIP SLYMEが5人で再始動》“雪解け”匂わすツーショット写真と、ファンを熱狂させた“フライング投稿”「ボタンのかけ違いがあった事に気付かされました」
NEWSポストセブン
ドナルド・トランプ米大統領によって実施されているさまざまな施策が、米国社会に大きな影響を与えている(AFP=時事)
「極度の肥満のため死刑を停止して」「執行の際に座骨神経痛が痛む」女性に性的暴行し殺害したマイケル・タンジ死刑囚(48)の“驚きの要望”《トランプ大統領就任で加速する死刑執行》
NEWSポストセブン
中居正広の私服姿(2020年)
《白髪姿の中居正広氏》性暴力認定の直前に訪問していた一級建築士事務所が請け負う「オフィスビル内装設計」の引退後
NEWSポストセブン
これまで以上にすぐ球場を出るようになったという大谷翔平(写真/AFLO)
大谷翔平、“パパになる準備”は抜かりなし 産休制度を活用し真美子夫人の出産に立ち会いへ セレブ産院の育児講習会でおむつ替えや沐浴を猛特訓か
女性セブン
ネズミ混入トラブルを受けて24時間営業を取りやめに
《ゴキブリ・ネズミ問題で休業中》「すき家」24時間営業取りやめ 現役クルーが証言していた「こんなに汚かったのか」驚きの声
NEWSポストセブン
岡田結実
《女優・岡田結実(24)結婚発表》結婚相手は高身長の一般男性 変装なしの“ペアルックデート”で見せていた笑顔
NEWSポストセブン
ウッチャンナンチャンがMCを務める番組『チャンハウス』
【スクープ】フジテレビがウンナン&出川MCのバラエティー番組で小学生発言を“ねつ造演出”疑惑 フジは「発言意図を誤解して編集」と説明、謝罪 
女性セブン