全国の乳幼児を抱える家庭で、ポリオ(※1)の「ワクチン・パニック」が起きていることをご存じだろうか。ほとんどの国が使用をやめた「生ワクチン」を、日本だけが集団接種し続けているため、なんと2割もの子供が接種を受けずに感染の危険に晒されているのである。
ジャーナリストから神奈川県知事に転身した黒岩祐治氏は、公然と国に反旗を翻し、神奈川だけの独自策を発表した。このケンカ、国を動かすことになるのか、それとも霞が関の力ずくの圧力に屈するか。黒岩氏が「国にケンカを売った理由」を説明する。
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私は神奈川県独自にポリオの不活化ワクチンを輸入して、希望する県民に接種することを決めた。これに対し、小宮山洋子・厚生労働大臣が「予防接種行政上、好ましいことだとは思わない」と批判してきた。私は小宮山氏個人に悪い感情はないが、彼女が進めようとしている予防接種行政こそ、「国民にとって好ましくない」と申し上げたい。
日本は生ポリオワクチンの乳幼児への集団接種を実施している(※2)。生ワクチンは病原性を弱めたウィルスが入っているため、受けた人の中に稀にポリオに罹ってしまう人がいる。最近の10年間で15人が認定されており、100万人に約1.4人とされている。
一方、日本では未承認の不活化ワクチンは、殺したウィルスから作られているため、「ウィルスとしての働きはなく、ポリオと同様の症状が出る副反応はない」と厚労省も認めている。この事実を知る親は、不活化ワクチンの接種を希望するに違いない。ところが、日本ではまだ、ポリオを発症する可能性のある生ワクチンの接種を続けているのである。
患者団体である「ポリオの会」が作った世界地図を拡げてみれば、日本がいかに遅れているか一目瞭然である。アメリカ、カナダ、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリア、韓国など、先進国は不活化ワクチンを採用している。中国、インド、ブラジルも不活化への切り替え中で、未だに生ワクチンを使用しているのは、南アフリカを除くアフリカ、モンゴル、北朝鮮などに限られている。
日本で不活化ワクチンを打つためには、医師が海外から個人輸入したものを自費で接種しなければならない。負担は1回5000~6000円で、4回接種が必要である。しかも未承認薬のため、万が一、副反応事故が起きた場合も国の救済制度は適用されない。
これまで患者団体などは不活化ワクチンの早期導入を求めてきたが、国は全く動こうとしなかった。最近になってようやく導入の方向性を打ち出したが、早くても12年度の終わりごろという。少なくともあと1年半は今のままの状態が続くことになる。
(※1)ポリオ/急性灰白髄炎とも呼ばれる。ポリオウィルスによって脊髄の灰白質が炎症を起こし、発熱や意識障害の後、腕や下肢がまひすることがある。5歳以下の乳幼児の感染がほとんどだが、大人でも発症する。まひや筋力低下が回復せず深刻な後遺症となるケースもある。小児の死亡率は2~5%に上る。
(※2)予防接種法は定期接種と任意接種に分けられる。ポリオは定期接種で料金は無料。事故が起きた際には国が補償することが同法で定められている。生後3か月から7歳6か月までの間に計画実施する。多くの行政機関では、春・秋の2度に分けて接種を行なっている。
※週刊ポスト2011年11月11日号