ギリシャ発の欧州金融危機が“第2のリーマン・ショック”として再び襲いかかろうとしても、日本にはその危機を回避し、さらに経済成長を促進する方策がある、と元財務官僚で経済学者の高橋洋一・嘉悦大学教授は言う。その解答は1929年の世界恐慌から日本を救った時の大蔵大臣、高橋是清のとった政策にある。
* * *
欧州金融危機によって世界各国がその波及に戦々恐々としているが、日本は的確な政策をとれば、危機を回避し、景気を上向かせて、世界経済を牽引することができる。
日本が取るべき政策の指針となるのが、世界恐慌の際に、時の高橋是清・蔵相が行なって世界的に高い評価を得ている経済政策だ。
1929年の世界恐慌時の井上準之助・蔵相は徹底した緊縮財政というデフレ政策を取ったが、明らかな政策の誤りだった。日本に限らず、当時は、GDP統計などがないから、各国がどんな政策が有効なのかの判断基準が難しかった。また、金本位制で金融政策の自由度が小さかったため、多くの国が金融引き締めやデフレ政策で失敗していた。
そこに登場したのが犬養毅内閣の高橋是清蔵相だった。
彼は、国債を増発して財政拡大路線に転換し、同時に、国債を日銀に引き受けさせて大胆な金融緩和を実行した。デフレ政策から、ゆるやかなインフレをめざすリフレ政策をとったのだ。これによって日本は世界の中でもかなり早い段階で恐慌を脱出することができた。
そして今、世界経済危機を前に、日本の財務省は「増税」というデフレ深刻化政策を掲げ、日銀は金融引き締め状態を変えようとしない。まさに昭和恐慌のときの井上準之助蔵相が取ったのと同じ間違った道だ。
国民の多くは、財務省の宣伝とそれに乗った大メディアの報道で、「日本は財政危機」という間違った認識を植え付けられている。
だから安住財務相が、「増税による財政再建」を打ち出しても、「ギリシャの二の舞いにならないためには仕方がない」と思い込んでいる。
しかし、世界からは日本が財政危機だとは全く思われていない。その国の財政が破綻の危機に瀕しているのかどうかは、クレジット・デフォルト・スワップ(CDS)のレート(保証料)を見ればわかる。破綻する可能性が高ければ、レートは上昇する。
だが、G7の中で日本(1.1%)はアメリカ(0.5%)、英国(0.9%)、ドイツ(1%)に次いで4番目に低く、フランス(1.7%)より上位にある。日本政府は借金は多いが、一方で巨額の資産(約650兆円)を持っているから、財政破綻は心配されていないのだ。この基準で言えばギリシャは約50%で、それだけのレートがついてしまう破産状態の国だ。日本は全く違う。
それにもかかわらず、日本がこのまま金融緩和をしない、増税、といったデフレ政策を続けるなら、各国が通貨安競争で輸出を増やし、経済を立て直そうとしている一方で日本だけ円高が進み、日本の企業・経済は弱体化していく。
一刻も早く、昭和恐慌の教訓を思い出し、「井上政策」から「是清政策」への大胆な転換をはかるべきだ。
世界で信用収縮が始まり、景気が悪化する中にあって、GDP世界3位の日本が金融緩和によって景気を回復し、日本市場を拡大させることが、世界経済を支えることにつながる。リーマン・ショック後、日本はIMFに10兆円を緊急融資した。日本経済が復調すれば、今回の金融危機でも日本政府がさらに世界に金融支援する余裕も生まれるはずだ。
●聞き手・構成/武冨薫(ジャーナリスト)
※SAPIO2011年11月16日号