ロシアのプーチン首相の強権的手法は、西欧的民主主義とは明らかに違う。その権力を支えているのはメドヴェージェフ大統領を中心とする側近たちだ。ロシア情勢に詳しいジャーナリストの惠谷治氏が解説する。
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プーチン首相が党首を務める最大与党「統一ロシア」の第12回党大会が開催され、9月24日、プーチン首相とドミトリイ・メドヴェージェフ大統領は、次のようなやり取りで、茶番劇を演じた。
プーチン:「大統領を『統一ロシア』の比例名簿第1位に置く近年の慣習を崩すべきではない。12月の下院選挙では、メドヴェージェフ大統領が党を率いるよう提案する」
メドヴェージェフ:「私が党を率いるという提案に関して、党が選挙で良い結果を残せば、政府の実務的な職責(首相)に就きたい。党がプーチン首相を、大統領候補として支持することが適切だと思う」
プーチン:「私を大統領候補に推挙してくれて、大変に光栄だ。『統一ロシア』が総選挙に勝利し、メドヴェージェフ氏が政府を率いてくれるものと確信している」
メドヴェージェフ大統領は「我々が連携を組んだ時」、すなわち「メドヴェージェフが大統領に就任し、プーチン氏を首相に指名した2008年」に、次期大統領にはプーチン氏が返り咲き、自分が次期首相となる「合意」ができていた、とも語った。
これは選挙民を無視したあからさまな政治的密約であり、ロシアでは平然と行なわれていることが、本人の口から明らかにされたのだった。
ロシアでは、2008年12月の憲法改正により、大統領の任期が4年から6年に延長された。その結果、来年3月に実施される大統領選挙で当選すれば、最長で2期12年となり、2024年までの長期政権が約束される。
プーチン氏が「統一ロシア」の次期大統領候補に決まった直後、政府批判を展開する独立系新聞『ノヴァヤ・ガゼータ』(9月26日付)は、1面トップに「プーチン氏の任期は、2012年から2024年まで?」という見出しを掲げ、2024年には72歳になるプーチン氏の年老いた肖像と、2024年まで付き従うと予想される「クレムリンの新政治局員」8人のイラストを掲載した。
『ノヴァヤ・ガゼータ』が“任命”した「新政治局員」の顔ぶれのうち、メドヴェージェフ大統領、イワノフ第1副首相、グレフ国営スベルバンク総裁、マトヴィエンコ上院議長、クドリン元財務相、グルイズロフ下院議長の6人はプーチンの出身地から「サンクト・ペテルブルク派」と呼ばれる者たちであり、フラトコフSVR(ロシア対外情報庁)長官、ショイグ非常事態相(上級大将)の2人と、前出のイワノフ(元FSB次官、元国防相)、グルイズロフ(元内相)は、「シロヴィキ」と呼ばれる軍やKGB出身の政治的エリートであることが特徴となっている。
8人の「新政治局員」のうち、最年長は唯一の女性政治家で、9月21日に上院議長(大統領、首相に次ぐ国家ナンバー3)に抜擢されたばかりのワレンチナ・マトヴィエンコ元ペテルブルク市長(62歳)。そのほか、50代以下がずらりと並ぶ。
メドヴェージェフ氏にいたっては、プーチン氏より13歳も年下の46歳であり、2024年になっても今のプーチン氏と同じ年齢と若い。「新政治局」は、1980年代のソ連のクレムリンや、自民党全盛時代の日本に蔓延していた“老害”とは無縁である。
しかし一方では、すでに次期政権をめぐって権力闘争が始まっている。アレクセイ・クドリン副首相兼財務相(51歳)は、メドヴェージェフ氏が次期首相に指名されると、同政権には参加しないと公言して、9月26日に解任された。
一説によれば、ロシアの金融安定に貢献したクドリン氏はプーチン氏から次期首相を約束されていたのに、メドヴェージェフ氏が次期首相に指名されたため、失望して辞任を申し出たとも噂されている。
今回の「統一ロシア」の党大会では、来る12月4日の総選挙で、メドヴェージェフ氏を第1位に置く比例名簿が承認されたが、その際の投票では582人が賛成票を投じ、反対票はわずか1票だった。
しかし、プーチン氏はその1票にこだわり、「反逆者はどこにいる。顔を見せるべきだ」と威嚇したという。“皇帝(ツァー)”に従わない者は生き残れないという不文律は、厳然と残っているのである。
※SAPIO2011年11月16日号