国際情報

プーチン首相 わずか1票の反対票に「反逆者はどこだ」と威嚇

ロシアのプーチン首相の強権的手法は、西欧的民主主義とは明らかに違う。その権力を支えているのはメドヴェージェフ大統領を中心とする側近たちだ。ロシア情勢に詳しいジャーナリストの惠谷治氏が解説する。

* * *
プーチン首相が党首を務める最大与党「統一ロシア」の第12回党大会が開催され、9月24日、プーチン首相とドミトリイ・メドヴェージェフ大統領は、次のようなやり取りで、茶番劇を演じた。

プーチン:「大統領を『統一ロシア』の比例名簿第1位に置く近年の慣習を崩すべきではない。12月の下院選挙では、メドヴェージェフ大統領が党を率いるよう提案する」

メドヴェージェフ:「私が党を率いるという提案に関して、党が選挙で良い結果を残せば、政府の実務的な職責(首相)に就きたい。党がプーチン首相を、大統領候補として支持することが適切だと思う」

プーチン:「私を大統領候補に推挙してくれて、大変に光栄だ。『統一ロシア』が総選挙に勝利し、メドヴェージェフ氏が政府を率いてくれるものと確信している」

メドヴェージェフ大統領は「我々が連携を組んだ時」、すなわち「メドヴェージェフが大統領に就任し、プーチン氏を首相に指名した2008年」に、次期大統領にはプーチン氏が返り咲き、自分が次期首相となる「合意」ができていた、とも語った。

これは選挙民を無視したあからさまな政治的密約であり、ロシアでは平然と行なわれていることが、本人の口から明らかにされたのだった。

ロシアでは、2008年12月の憲法改正により、大統領の任期が4年から6年に延長された。その結果、来年3月に実施される大統領選挙で当選すれば、最長で2期12年となり、2024年までの長期政権が約束される。

プーチン氏が「統一ロシア」の次期大統領候補に決まった直後、政府批判を展開する独立系新聞『ノヴァヤ・ガゼータ』(9月26日付)は、1面トップに「プーチン氏の任期は、2012年から2024年まで?」という見出しを掲げ、2024年には72歳になるプーチン氏の年老いた肖像と、2024年まで付き従うと予想される「クレムリンの新政治局員」8人のイラストを掲載した。

『ノヴァヤ・ガゼータ』が“任命”した「新政治局員」の顔ぶれのうち、メドヴェージェフ大統領、イワノフ第1副首相、グレフ国営スベルバンク総裁、マトヴィエンコ上院議長、クドリン元財務相、グルイズロフ下院議長の6人はプーチンの出身地から「サンクト・ペテルブルク派」と呼ばれる者たちであり、フラトコフSVR(ロシア対外情報庁)長官、ショイグ非常事態相(上級大将)の2人と、前出のイワノフ(元FSB次官、元国防相)、グルイズロフ(元内相)は、「シロヴィキ」と呼ばれる軍やKGB出身の政治的エリートであることが特徴となっている。

8人の「新政治局員」のうち、最年長は唯一の女性政治家で、9月21日に上院議長(大統領、首相に次ぐ国家ナンバー3)に抜擢されたばかりのワレンチナ・マトヴィエンコ元ペテルブルク市長(62歳)。そのほか、50代以下がずらりと並ぶ。

メドヴェージェフ氏にいたっては、プーチン氏より13歳も年下の46歳であり、2024年になっても今のプーチン氏と同じ年齢と若い。「新政治局」は、1980年代のソ連のクレムリンや、自民党全盛時代の日本に蔓延していた“老害”とは無縁である。

しかし一方では、すでに次期政権をめぐって権力闘争が始まっている。アレクセイ・クドリン副首相兼財務相(51歳)は、メドヴェージェフ氏が次期首相に指名されると、同政権には参加しないと公言して、9月26日に解任された。

一説によれば、ロシアの金融安定に貢献したクドリン氏はプーチン氏から次期首相を約束されていたのに、メドヴェージェフ氏が次期首相に指名されたため、失望して辞任を申し出たとも噂されている。

今回の「統一ロシア」の党大会では、来る12月4日の総選挙で、メドヴェージェフ氏を第1位に置く比例名簿が承認されたが、その際の投票では582人が賛成票を投じ、反対票はわずか1票だった。

しかし、プーチン氏はその1票にこだわり、「反逆者はどこにいる。顔を見せるべきだ」と威嚇したという。“皇帝(ツァー)”に従わない者は生き残れないという不文律は、厳然と残っているのである。

※SAPIO2011年11月16日号

トピックス

希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
NASAが発表したアルテミス計画の宇宙服のデザイン(写真=AP/AFLO)
《日本人が月に降り立つ日は間近》月面探査最前線、JAXA「SLIM」とNASA「アルテミス計画」で日本の存在感が増大 インドとの共同計画や一般企業の取り組みも
週刊ポスト
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン
胴回りにコルセットを巻いて病院に到着した豊川悦司(2024年11月中旬)
《鎮痛剤も効かないほど…》豊川悦司、腰痛悪化で極秘手術 現在は家族のもとでリハビリ生活「愛娘との時間を充実させたい」父親としての思いも
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト