東京や首都圏湾岸部のあちこちで再開発プロジェクトが進行し、オフィスビルや高層マンションの建設ラッシュが続いている。未曾有の大震災から劇的な復活を遂げつつある日本の不動産業界。果たして不動産景気が到来するのか、クレディ・スイス証券ヴァイス プレジデント、望月政広氏が分析する。
* * *
来年以降、不動産市場の回復度合いはさらに高まると予測している。というのも、建設ラッシュが続く東京では、オフィスの供給が需要を大きく上回っていると見られがちだが、実際には供給圧力がそれほど増加しているわけではない。
スクラップ化(解体)されて消失したビルを差し引いたネットのオフィスの供給率(全体のオフィスの床面積に対する新築ビルの床面積)は、来年の2.9%をピークに減少する(今年は1%)。つまり建設ラッシュに匹敵するほどの古いビルのスクラップ化が進んでいるのである。
しかも東京は人口が増加している成長都市である。オフィスワーカーも確実に増えていることを考慮すれば、リーマン・ショックで抑えられていた潜在需要がマグマのように一気に噴出しても不思議ではない。地震対応によるオフィスビルのスクラップアンドビルド(建て替え)の加速とともに需要が増し、空室率は低下していくと予想している。
大阪、名古屋、福岡など地方の主要都市でも場所によっては空室率がどんどん下がっている。東京の不動産の動向は地方にも及んでいるのだ。
外国人投資家の動きも見逃せない。震災直後、特にアジア系の投資家は日本を離れていたが、再び戻りつつあり、投資を再開している。彼らが買っているのは主に住宅である。日本の住宅は香港やシンガポールに比べて割安に放置されているからだ。
世帯収入に対する住宅価格の値を見ると、アジアの諸都市では香港の約11倍など高水準にあり、不動産バブルの真っ只中にある中国では、政府が「不動産価格を抑制する」と公言している。これに対して東京は約7倍だ。
世界的に見ても、リーマン・ショックを引きずるアメリカでは、銀行の不動産向け貸出残高が減少し続けており、不動産マーケットは冷え込んだままで、回復の兆しはまったく見えない。
またヨーロッパの物件もソブリン(国債)リスクなどを考えると不動産投資の対象にはなりづらい。世界の中でも東京が魅力的な投資先であるのは誰の目にも明らかなのだ。
不安要因がないわけではない。それは日本の政治の混乱だ。その国の不動産を購入するということは、ある意味でその国の未来を信じることでもある。首相が1年でコロコロ代わるようでは困るのだ。
政治の混乱や経済政策などの誤りがなければ、震災復興による経済成長と相まって、空前の不動産景気が到来する可能性は高い。
※SAPIO2011年11月16日号