今年の9月1日に満97才を迎えた、日本初の女性報道写真家の笹本恒子さん。このほど、関東大震災、戦争、結婚、転職、夫の闘病などを語った『好奇心ガール、いま97歳』(小学館)を出版した。
順風満帆な写真家生活を送ってきた笹本さんだったが、やがて仕事をしていた媒体が相次いでなくなり、休業状態に追い込まれたという。若いころ学んだ洋裁の才能を生かしてオーダーメードの洋装店を開いたり、フラワーデザインの教室を運営したことも。
「死んでしまおうと思ったことは、人生で少なくとも2度ありました。それまで撮ったフィルムを焼却炉で燃やして、その中に自分も飛び込んでしまおうと…。でも、死にきれないで生きてきました。このごろは自殺するかたも多いようですが、何かの道を探して生きていくことが、大事だと思います。人生はそんなに生易しいものではないけれど、両親から授かった命、いただいたものだと思って、とどまってほしいですね」
写真の世界に完全復帰したのは71才だった。数多くの作品のなかで、笹本さんの代表作は何ですか、と水を向けると、「代表作といえるものはまだありません。死ぬまでに撮りたいと思ってはいるのですけれど」ときっぱり。
ちなみに、いま取材で撮りたい人物は、作家の大江健三郎氏、ジャーナリスト・作家・評論家の立花隆氏、建築家の池田武邦氏、北海道夕張市長の鈴木直道氏…。知名度は関係なく、自分の夢を追い求めて“いい仕事”をしている人だ。備忘録でもある無印良品のノートには、毎日、会いたい人の名が増えていく。そのノートや愛用のカメラを見せてもらうとき、彼女の爪がきれいなローズピンク色で彩られていることに気づいた。「素敵なネイルですね」というと、こう答えが返ってきた。
「私の場合は、おしゃれなんかではなくて…。戦前はこんなことしたら軽蔑されたものですが、戦後は大丈夫になりましたね。年とともに爪の色も悪くなるので、隠すのにちょうどいいんです。そんなに見ないでください。恥ずかしいですから(笑い)」
そうはにかみながら手を隠す笹本さんだが、外出しなくても毎朝「身だしなみ」としてファンデーションを塗り、眉を描き、口紅をひく。
最後に「40代が多い読者にひと言」というと、なんとも力強い言葉が返ってきた。
「50、60は、女の盛り。うらやましいわ、いまからいくらでも、何でもできるじゃありませんか。これからがあなた自身の時間なのですから…」
※女性セブン2011年11月17日号