今年のドラフト、最大の話題は東海大・菅野智之の去就だったが、彼は一体どれほどの実力を持つのか。学生時代、早大野球部に在籍するも腕前は捕手10人中10番目。それでも野球の仕事は諦められず……会社員を経て雑誌『野球小僧』のライター業に辿りついた。そんな苦労の末、全国を旅しながら噂に聞こえた剛腕投手の球を受ける“流しのブルペンキャッチャー”安倍昌彦氏が菅野を語る。
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それにしても、東海大の菅野智之ってヤツは、すごいヤツだ。
160キロ近い最速を有する快速球に、140キロ前半のカットボールと130キロ台のスライダーにフォーク。プロでも、これだけの「飛び道具」を揃えている投手はなかなかいない。そんな剛球を、ほとんど上半身のパワーで投げてしまう。
下半身は何もしないのか。いやいや、そんなわけはない。並外れた上体の運動量を、どっしりと支えて、精度に害を与えない。
立ち投げの初球。軽く腕を振っただけのボールが、あぶなくこっちの顔に当たるところだった。あの腕の振りでこのボールかよ……。
5の腕の振りから、7や8のボールが投げられるのがプロの資質。
腰を下ろして、本気で投げてもらったら、こっちに突進してくるボールに蒸気が噴き出しているようだった。
弾よりも速く、力は機関車よりも強く。東海大・菅野智之はクラーク・ケントの「スーパーマン」だった。 とにかく馬力、そしてスピード感。
カットボールは、ベースの上までまっすぐに来て、そこから急に進路を変えて、わが右肩を直撃した。バットが振り出されてからスッと曲がられては、打者はもはやお手上げである。
持ち球がすごいだけじゃない。 菅野智之という投手は、ピンチを迎えると相手ベンチをじ~っと見ているヤツなのだ。
監督が打者に何を指示しているのか。それを受けた打者の反応はどうだ。ビビッているのか、それとも少しは腕に覚えがあるのか。 敵陣をじ~っと見つめて、何かを察して、こういう手を打っていこう。用心深さ、そして先回り。これこそ、攻めのピッチング。マウンド上での精神年齢が高い。
11月2日、明治神宮大会の予選となる一戦で、サヨナラ負けを喫して学生野球生活の幕を下ろした菅野智之。 2死二、三塁、左打者のいちばん打ちやすい真ん中外より、今日のいちばん打ちやすい球種のカーブを投じてしまった。きれいに打ち抜かれた打球は、ライトの右へライナーとなって飛び、マウンド上の彼は、立ちつくすばかりだった。
日本ハム指名という波乱に翻弄されたが、「流れ」はいつも移ろいやすく、よくも悪くも、いつまでもそのまま続くわけではない。
※週刊ポスト2011年11月18日号