暴力団排除条例や、銀行などからの暴力団締め出しで、ホームレス一歩手前まで追い詰められる末端組員が続出しているという。だがこれでヤクザは壊滅に向かうとの見方は楽観的すぎるようだ。ベストセラーの『暴力団』(新潮新書)などの著者でノンフィクション作家の溝口敦氏は、逆に、矢面に立たされる住民側の暴力団被害が間違いなく増大すると警告する。
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暴排条例の先進地である北九州市では10月13日、八幡西署が暴力団工藤会幹部らの名刺を刷ったとして、印刷業者2社に警告書を、下請けの印刷業者ら3社に注意書きを出した。印刷業者は工藤会幹部ら20人の名刺作成を15万円で引き受けた。これは暴排条例の「暴力団の活動を助長する利益供与の禁止」規定に違反するというのだ。
業者が警察に警告されるなんてまっぴら、カタギ相手の仕事に差しつかえると思うなら、発注主の暴力団に面と向かって「うちではお宅の仕事は扱えないんですよ」とお断わりしなければならない。
暴力団はカッとなって業者を殴るかもしれない。当然、業者はケガを負うが、ケガは自分持ちである。どこも治療費を負担してくれない。警察は騒ぎの後ノコノコ登場し、「実行犯はどこのどいつや」と捜査にかかるだけだ。
現に福岡県飯塚市で今年2月、建設会社の事務所に銃弾6発が撃ち込まれた。被害に遭った会社の社長は、公共工事の受注が少なくなって金繰りが苦しい、暴力団排除条例もあるので、地元の暴力団太州会にみかじめ料の支払いを断わった、と語っている。
警察はみかじめ料の支払いを拒まれた太州会側が建設業者に報復するため発砲したと見て、太州会の幹部ら6人を銃刀法違反などで逮捕したが、太州会側は否認している。
要するに今後は住民が暴力団の矢面に立つ。その結果、何が起きるかといえば、住民側の暴力団被害が間違いなく増大する。北九州市に根を張る前出の工藤会はカタギの市民も容赦なく攻撃することで全国に名を知られた指定暴力団だが、日本全国にこうした「工藤会現象」が拡散すると見られる。
工藤会は住民に対してどのような乱暴を働いているのか。最近の事例では、西部ガスの関連会社と役員宅を銃撃した、九州電力の会長宅に爆発物を投げ込んだ、暴力団追放運動に取り組む住民が経営するクラブに手榴弾を投げ込んだ、安倍晋三元首相の自宅と後援会事務所に火炎ビンを投げ込んだ、工藤会追放運動の自治会役員宅を銃撃した、みかじめ料の支払いを拒否したパチンコ店に火炎ビンを投げ込み、放火した……などである。
そのため工藤会の公判では証言者5人中4人が証言を拒否するなど、日本ではないかのような異常事態が生まれている。
警察庁はこういう工藤会に対し「極めて悪質な団体」などと名指しで非難しているが、福岡県警の捜査は手ぬるく、住民襲撃の首謀者ばかりか実行犯さえほとんど逮捕できていない。完全に暴力団になめられているのだ。
警察庁は暴力団つぶしに本腰を入れている、暴排条例でヤクザ壊滅だ、などと思っている人はお人好しでなければ、アホである。後で煮え湯を飲まされることは間違いない。
※SAPIO2011年11月16日号