市場規模20兆円、パチンコ業界の雄である<マルハン>の韓昌祐(ハン・チャンウ)会長。密航船で下関に着いてから64年、パチンコ界の巨人となったハン会長が、マスコミ初登場でインタビューを受けた。作家の山藤章一郎氏が報告する。
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渋谷駅から東急本店に向かった右手、赤い看板の〈マルハンパチンコタワー渋谷〉。雨の午後。
「渋谷のあのビル、1階にマルハンがない。外からパチンコ台が見えない空中店舗を見上げてサーッと血の気が引きました。そんなパチンコホールはこれまでなかった」
以下、〈マルハン〉韓昌祐会長インタビュー。ハン氏はこれまで、日本のマスコミにほとんど登場していない。
戦後の混乱、昭和、平成をパチンコで生き抜いてきた伝説の人物である。日本最大のパチンコホール〈マルハン〉会長。韓国慶尚南道生まれ。80歳。インタビューは、東京駅に隣接したビルの東京本社で。
仕立てのいいスーツに高い背を包んでまっすぐ歩く姿に、老いの気配はない。質問をさえぎることなく、穏やかに話す。話の端々に「在日」の誇りをにじませる。
氏は6月30日、石巻に行った。
「テレビには映りませんが、臭いもひどい。泥が流れてきて下水が詰まり、大きな船が町に揚がって。人間は完全に自然に負けた、今こそ日本全国民が結束して復興させるべきだと思いを強くしました」
災害の3日後、寄付を決めた。総額5億円。
「日本に住む市民のひとりとして国難に立ち向かおうと。さらに、全国のチェーン店で展開した募金活動やボランティアで結局7億近い寄付をさせていただきました。
パチンコといえば、脱税してる、暴力団と結びつきがある、ボロ儲けする、ダーティなイメージを持たれています。たしかに昔はそういうこともありました。それを、マルハンが変えてきた。昔のような白いズボンに白い靴、茶髪、そんな者はひとりもいない。
売り上げは2兆円を超してなお上がっていますが、経常利益は大きな商社と同程度の2%ほどです」
渋谷店は約1000台、50億円を投資した。他の地域なら8店舗は出せる。平成7年だった。西から東京に乗り込んだマルハンの売り上げは1600億円。一方、東京から北に攻めていったライバル・ダイナムコーポレーションは、884億円。
ダイナムはその年、7億円で平均480台の店を7店舗つくった。6店舗か7店舗あれば1店舗が失敗してもリスクは少ない。マルハンは一時的にトップに立つが2年でダイナムに抜かれた。自著『わが半生』(マルハン刊)の中でこう述懐する。
〈電灯ひとつつければいくらになるか。原価計算できる店長になれ。店長は攻撃力が大事だ。相手を攻めていく力を養わないといつのまにか攻められると口を酸っぱくしました。資本主義は、商売の戦争です。戦争は、負けてはいけない。
相手に遠慮していると、こちらが死ぬ目に遭う。いまでも渋谷は家賃が高く営業上は失敗店、経営効率が悪すぎると反省しています。しかし、若い者に任せたのです。ここを切り抜けてがんばれと〉
※週刊ポスト2011年11月18日号