年金支給年齢の引き上げや消費税増税などの検討を盛り込んだ「社会保障・税一体改革成案」が7月1日閣議了承された。「成案」は、もはや国民に働く意欲も、豊かな生活も許さない「官僚独裁国家」を作るものである。
「消費税10%」がすべての国民にとって負担倍増であることはいうまでもない。そのうえで、この計画の特徴は、中産階級やアッパーミドル層を「稼いでいるから取りやすい」と狙い撃ちしていることだ。
年金保険料アップにその思想が端的に表われている。「標準報酬上限の引上げ」がそれだ。現在、厚生年金保険料は月収約62万円を超えると上限に達し、それ以上はいくら稼いでも変わらない。もちろん、受け取る年金額も増えることはない。
野田政権はその上限を2倍の月収約121万円に引き上げるという。上限のサラリーマンの場合、毎月納める(天引きされる)保険料はこれまでなら約5万円だが、改正後は約10万円に倍増する。
いきなり手取りが月5万円も減るのは信じがたい話だが、「金持ちだからいい」というのがこの成案のとりまとめ役で、左翼運動に傾倒した仙谷由人氏(当時は官房副長官)の言い分なのだ。
本当にそうだろうか。確かに月収62万円のサラリーマンといえば、平均よりずっと高所得だし、おそらく大企業の管理職クラス、中小なら役員クラスでなければ届かない金額だろう。
が、それが「高額所得者」として負担を強いられるほど裕福な暮らしなのか、冷静に考える必要がある。
日本のサラリーマンは、もともと先進国のなかでも高い所得税や社会保障費を天引きされているだけでなく、自営業者や国会議員のような節税はできない。
一方で、「3大消費」といわれるマイホーム、マイカー、教育費負担は先進国で最も高いといわれる。年収1000万円のサラリーマンが年収600万円の人に比べて、ものすごくリッチな生活ができるかといえばそうではない。
東京なら、自宅マンションが10平方m広くなれば約1000万円高くなる。住宅ローン金利も考えれば、それだけで年間50万円以上、可処分所得は減る。マイカーは我慢すればよい話だが、子供が1人増えれば年間かかる養育費、教育費は100万円単位だ。
60平方mのマンションに住む3人家族と70平方mに住む4人家族では、年収が600万円と1000万円だったとしても、食事、娯楽、衣服などにかけられる金額はほとんど変わらないのが実情なのだ。
しかも、野田政権が負担増の線引きをした年収700万円台という数字は、家族を養いながら不況と戦うサラリーマンたちにとって、多くが「いつかそれくらい稼げるようになりたい」と目指す現実的な夢だろう。そこに到達した途端、「お前は高額所得者だから、もっと負担してもらう」と悪代官が待ち構えているとすれば、サラリーマン人生には夢も希望もない。
※週刊ポスト2011年11月18日日号