警察組織と暴力団のせめぎ合いは水面下で激化している。ジャーナリスト・伊藤博敏氏が、暴力団排除条例の全国施行から1か月が経とうとする中で暴力団はどのような対策を取ろうしているのか、その最前線を報告する。
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暴排条例は、暴力団社会を変質させる。なかでも、その影響をモロに受けるのは、縁日などの露天商、「テキ屋の世界」である。
山口組系直系組織の小車誠会が、10月までに山口組を除籍となり、解散したことが明らかになった。テキ屋の最大手で、全国の様々な縁日に関与、仕切ってきた。暴排条例は、暴力団の影が少しでもチラつけば、露店を認めないというのだから存亡の危機であり、暴力団を離れるしかない。もちろん「偽装解散」の疑いは消えないわけだが、暴力団周辺者ではない露天商自身の意識が変わってきている。
千葉県では、9月27日、「反社会的勢力との関係を一切、持たない」と宣言した露天商が集まって、千葉県街商協同組合を設立した。持ちつ持たれつの関係にあった暴力団だが、その存在が生活を脅かすとなれば、バー・クラブなどのサービス業や一般事業会社と同様、関係遮断の覚悟を決めねばならない。
暴力団の敵は、国家権力を背景にした市民になった。
「カタギの衆に迷惑をかけちゃいけない」という“不文律”がある限り、暴力団が市民と面と向かってぶつかり合うことはできない。まして、六代目山口組の篠田建市(通称・司忍)組長は、そうした“伝統”を大事にする気質だという。憂色は濃い。
そうした気持ちの表われか、篠田組長は、『産経新聞』のインタビューに応じ、その内容が10月1日にウェブに掲載された。マスコミとの接触を禁じた山口組のトップが自ら語るなど極めて異例。そのやむにやまれぬ気持ちが、冒頭に凝縮されていた。
〈異様な時代が来たと感じている。やくざといえども、われわれもこの国の住民であり、社会の一員。(中略)われわれにも親がいれば子供もいる、親戚もいる、幼なじみもいる。こうした人たちとお茶を飲んだり、歓談したりするというだけでも周辺者とみなされかねないというのは、やくざは人ではないということなのだろう〉
まさにそうだ。住民サービスも行なわない。借家を追い出し、銀行口座を閉じ、とことん追い詰める。行き着く先は、改姓改名、正体を隠したうえでの「マフィア化」である。
しかも銀行口座を開けないからビジネス活動ができず、もし“偽装”で口座を開いても、バレたら封鎖される。そのリスク回避のために、運用本部やビジネスの拠点を海外に置く事例が増えている。
「山口組と“親戚関係”にある指定暴力団で、マカオに事業総本部を置いたところがあります。語学が達者で各国の税法、刑法、会社法などに強いのがいれば、海外進出はどうとでもなります。まして日本に新たな“ビジネスチャンス”はなく、中国と東南アジアがこれから伸びる。拠点を海外に移す組織が増えるでしょう」(山口組系企業舎弟)
暴排条例の帰結が「暴力団の輸出」というのであれば、諸外国に予想外のハレーションを今後、広げることになるかもしれない。
※SAPIO2011年11月16日号