芸能

“未完の大器”柳家一琴は当たり前の噺を独特の爆笑編に変身

広瀬和生氏は1960年生まれ、東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。30年来の落語ファンで、年間350回以上の落語会、1500席以上の高座に接する。その広瀬氏が、“未完の大器”評する落語家が柳家一琴だ。

* * *
1993年、落語人気が低迷する状況を打破しようと意欲的な若手落語家七人が「らくご奇兵隊」というユニットを結成した。メンバーは春風亭昇太、立川談春、立川志らく、柳家小緑(現・花緑)、三遊亭新潟(現・白鳥)、橘家文吾(現・文左衛門)、そして横目家助平。

昇太だけが真打で、他は全員二ツ目だった。最後の「横目家助平」という一風変わった名前の落語家は、現在は柳家一琴と名乗っている。柳家小三治門下の「未完の大器」だ。

1967年生まれ、大阪出身。最初は大阪で落語家になることを考えたが、両親が関東出身だった影響で大阪弁に関東の訛りがあるとの指摘を受け、上方落語ではなく東京落語の演者になることを決意。「マクラ抜きでスッと噺に入って観客をたちまち引き込んだ『芝浜』のカッコ良さに惚れて」小三治に弟子入りした。

入門は1988年で、前座名は桂助。1992年に二ツ目に昇進する際「台所鬼〆」の襲名を希望したところ、大師匠である五代目小さんが「そんなにヘンな名前が欲しいなら」と、代わりに「横目家助平」を与えた。

2001年に真打昇進して柳家一琴。当初は改名せずそのまま真打にと思ったものの、小三治一門で同時昇進する柳家小のりのために師匠が「禽太夫」という名を考えたのが羨ましくなり、小三治に頼んで「一琴」と命名してもらったのだという。もっとも、「横目家助平」という名があまりにキャッチーだったせいか、文左衛門や白鳥あたりはいまだに一琴を「横目家」と呼んだりする。

現時点での知名度は「らくご奇兵隊」時代の仲間に大きく遅れを取っているが、『目薬』や『ふぐ鍋』といった軽い噺を何度でも面白く聴かせる一琴の「落語の上手さ」は注目に値する。持ち前の「顔の筋肉の柔らかさ」を活かした見事な「顔芸」には、当たり前の噺を独特の爆笑編に変えるパワーがある。

※週刊ポスト2011年11月18日号

関連記事

トピックス

紅白初出場のNumber_i
Number_iが紅白出場「去年は見る側だったので」記者会見で見せた笑顔 “経験者”として現場を盛り上げる
女性セブン
ストリップ界において老舗
【天満ストリップ摘発】「踊り子のことを大事にしてくれた」劇場で踊っていたストリッパーが語る評判 常連客は「大阪万博前のイジメじゃないか」
NEWSポストセブン
大村崑氏
九州場所を連日観戦の93歳・大村崑さん「溜席のSNS注目度」「女性客の多さ」に驚きを告白 盛り上がる館内の“若貴ブーム”の頃との違いを分析
NEWSポストセブン
弔問を終え、三笠宮邸をあとにされる美智子さま(2024年11月)
《上皇さまと約束の地へ》美智子さま、寝たきり危機から奇跡の再起 胸中にあるのは38年前に成し遂げられなかった「韓国訪問」へのお気持ちか
女性セブン
佐々木朗希のメジャー挑戦を球界OBはどう見るか(時事通信フォト)
《これでいいのか?》佐々木朗希のメジャー挑戦「モヤモヤが残る」「いないほうがチームにプラス」「腰掛けの見本」…球界OBたちの手厳しい本音
週刊ポスト
野外で下着や胸を露出させる動画を投稿している女性(Xより)
《おっpいを出しちゃう女子大生現る》女性インフルエンサーの相次ぐ下着などの露出投稿、意外と難しい“公然わいせつ”の落とし穴
NEWSポストセブン
田村瑠奈被告。父・修被告が洗面所で目の当たりにしたものとは
《東リベを何度も見て大泣き》田村瑠奈被告が「一番好きだったアニメキャラ」を父・田村修被告がいきなり説明、その意図は【ススキノ事件公判】
NEWSポストセブン
結婚を発表した高畑充希 と岡田将生
岡田将生&高畑充希の“猛烈スピード婚”の裏側 松坂桃李&戸田恵梨香を見て結婚願望が強くなった岡田「相手は仕事を理解してくれる同業者がいい」
女性セブン
電撃退団が大きな話題を呼んだ畠山氏。再びSNSで大きな話題に(時事通信社)
《大量の本人グッズをメルカリ出品疑惑》ヤクルト電撃退団の畠山和洋氏に「真相」を直撃「出てますよね、僕じゃないです」なかには中村悠平や内川聖一のサイン入りバットも…
NEWSポストセブン
注目集まる愛子さま着用のブローチ(時事通信フォト)
《愛子さま着用のブローチが完売》ミキモトのジュエリーに宿る「上皇后さまから受け継いだ伝統」
週刊ポスト
連日大盛況の九州場所。土俵周りで花を添える観客にも注目が(写真・JMPA)
九州場所「溜席の着物美人」とともに15日間皆勤の「ワンピース女性」 本人が明かす力士の浴衣地で洋服をつくる理由「同じものは一場所で二度着ることはない」
NEWSポストセブン
イギリス人女性はめげずにキャンペーンを続けている(SNSより)
《100人以上の大学生と寝た》「タダで行為できます」過激投稿のイギリス人女性(25)、今度はフィジーに入国するも強制送還へ 同国・副首相が声明を出す事態に発展
NEWSポストセブン