軍事力増強を加速する中国が日本に戦闘を仕掛けてくる。そんな説があるが、果たしてそうなったら、勝つのはどちらなのか。そして、いま、中国にとって日本の軍事力はどんな存在なのか。ジャーナリストの古森義久氏が解説する。
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中国側の日本に対する警戒を裏づけるような要素としては自衛隊の特定分野での能力の高さが指摘される。ヘリテージ財団の首席中国研究員ディーン・チェン氏が語る。
「自衛隊はアジアでは最も高度な技術を有する部隊です。特に海上自衛隊はイギリス海軍より艦艇数が多い。その能力も顕著なのです。中国からみれば、日本がアメリカを同盟国として抱えていることを合わせれば、軍事的にきわめて危険な存在となりえます。
また中国側の一部には、日本が独自に軍事強国になることを防ぐには日米安保条約が有効だとする意見があります。いわゆる『ビンのフタ論』です。でもその一方で『日米同盟は中国を抑えこむためのアメリカの覇権的な試みだ』という意見もあります。このへんは中国にとって日米同盟をどうみるべきかのジレンマですね」
「ビンのフタ論」というのは、日本の本格的な再軍備をビンの中に封じ込めるために、日米安保はそのフタになるという意味の議論である。かつて沖縄駐留の米軍海兵隊司令官がそんな発言をして更迭された。だが米側の一部には確実に存在してきた思考である。それと同じ考え方が中国にも存在するというのだ。
確かに中国側では最近こそ少なくなったとはいえ、長い年月、「日本の軍国主義復活」を声高に非難する声は絶えなかった。客観的にみて日本側にそんな動きはツユほどもないのに、起きる非難だった。
しかし海上自衛隊の戦力については、カーネギー国際平和財団副会長のダグラス・パール氏も高い評価を述べていた。
「中国は尖閣での衝突事件の際も海軍艦艇を急派はしませんでした。万が一、米海軍とはもちろんのこと、日本の海上自衛隊と戦えば正面からではまったくかなわないことを知っているからでしょう。もし中国と日本の艦艇同士が戦闘をすれば、中国側はみな撃沈されるでしょう。日清戦争の際の海戦と同じ結果です。ただしこの種の日本側優位の展開は戦闘の冒頭だけではありますが」
東シナ海での艦艇同士の戦いに限っていえば、ということだろう。だがパール氏はそこで一息ついて、もし日中が戦争を始めれば、日本にとって悪いこと、不利なことが多々起きる、とつけ加えた。
具体的にはおそらく中国側のミサイルを念頭においての発言だろう。なにしろ中国は日本全土を射程におさめた弾道ミサイルや巡航ミサイルを数百単位の基数、配備しているのだ。中国は核兵器をも保有する軍事大国なのである。同盟パートナーである米軍という強力な盾があってこそ日本側の対中抑止力は効果を発揮するが、日本独自では話にはならない。
この点については、国防省の元中国担当上級部長のダニエル・ブルーメンソール氏が解説を加えた。
「中国指導部はある面では日本がすでに衰えつつあるパワーだと判断し、軍事力を含めての日本の国力への懸念を減らしているという現実があります。この認識ではアメリカこそが日本をプッシュして、日本が自国の国家利益をもっと積極果敢に追求するよう圧力をかけているということになります。
結果として中国は日米同盟が全体として強化されることを嫌うのです。しかしその一方で日本独自への懸念も消し去れない。だから日米同盟に対しては反発と受け入れと、相反する対応の交錯した曖昧な要素も中国側にはあるということです」
こうしたアメリカ側専門家たちのコメントをまとめれば、中国はやはり日本自体には複層の敵対心や反発感情を抱き、その種の心情を軍事態勢にも反映させている、ということだろう。その背後には領有権紛争など実利的な日本への対抗の理由がある。
中国は同時に日米同盟にも強い警戒心を向けている。だがその日米同盟には、日本の自主的な軍事力増強という事態を抑える効用があるのではないか、という期待も一部では消していない。米側の中国の対日戦略観としてはこんな総括ができそうである。
※SAPIO2011年11月16日号