日本経済にとって極めてシリアスな未来予想がある。デモグラフィー(人口統計学)による将来人口推計だ。少子高齢化で2055年の日本は、最も人口の多い年齢が男女とも80歳を超えると予想されている。そんな日本がいかにして危機を乗り越えるか――「産めよ増やせよ」の政策が必要になってくるが、世界でこういった政策は効果をあげているのか? 大前研一氏が解説する。
* * *
「産めよ増やせよ」政策は、フランスやデンマークに学ぶべきである。少子化対策に成功した先進国としてメディアで頻繁に取り上げられるフランス(合計特殊出生率1.99/2009年)は、出産祝い金や育児手当の充実ぶりばかりに焦点が当たり、生まれてきた子供に対する日本との「法律上の扱いの違い」はさほど注目されない。だが、フランスの場合、生まれてきた子供の58%は親が結婚していない、つまり「親が結婚していなくても子供は法律上差別されない」ことが、出生率上昇の最大の理由なのである。
女性に子供を産んでもらおうという政策がフランス以上に徹底しているのが、1984年から出生率が上昇したデンマーク(同1.89/2008年)だ。女性は出産した病院で行政機関に届け出る。生まれた子供はその瞬間にデンマーク人となり、ICカードを付与される。父親が誰かは問われない。純粋な「登録(Registration)」だけのシステムだ。
一方、日本の場合は明治時代から変わっていない「戸籍制度」により、法律上の婚姻関係のない男女の間に生まれた子供は「非嫡出子」として法律上、また社会通念上、差別される。このため、基本的に出産は結婚が前提となる。
たとえフランスの真似をして手厚い出産祝い金や育児手当を施しても、戸籍制度がもたらす未婚の母親と子供への法律的、社会的な差別と偏見の解消なくして出生率の上昇はあり得ない。わずかな「子ども手当」のバラ撒きなど、もとより屁の突っ張りにもならないのだ。
※SAPIO2011年11月16日号