全日本空輸(ANA)が世界に先駆けて導入したボーイング社の最新鋭中型旅客機『787』が初フライトを果たした。日本の技術が35%も導入されたことが話題だが、細部にわたり「日本仕様」となっているところが見逃せないポイントなのだ。
日本の、特に冬の日本海側の雷雲は世界的にも特殊なものとして知られており、『787』は複合材料による機体であることからも、日本の環境要件を考慮した設計を依頼した。
“巨象”ボーイング社を説得するのは簡単ではなかった。わずか数グラムの重量の変更でも、それが本当に必要なことという確実なデータが得られなければ了承しない。交渉は延々と続いた。
『787』の開発に深く関わってきたANA側の中心的存在・同社整備本部技術部副部長で、787導入チーフ、プロジェクトマネージャー・並木広行氏(55)はこういう。
「従来の航空機で経験している不具合を二度と発生させてはいけない。我慢の交渉を粘り強く続けていきました。なんとか突破口を見つけなければ、ローンチカスタマー(航空機メーカーが新しい航空機の開発プログラムに正式にゴー・サインを出すために必要な、最初の発注を行なった航空会社)の意味がない――」
交渉のために日本の天候や落雷の件数など、膨大な資料も東京から取り寄せた。ボーイング社の担当者から嫌われる程、粘り強く交渉を重ねた。
「我々のやろうとしていることは前例がない。だからこそ成し遂げることに意味がある。100年経っても魅力的な航空機を作ろうと、必死でした」(並木氏)
詳細なデータに裏打ちされた資料、粘り強いアプローチの結果、ボーイング社の担当者も次第に耳を傾けるようになり、ボーイング社から、日本の落雷事情を現地で確かめたいと要請が入った。
日本の大学の研究所などを視察した結果、ついに「日本の雷雲事情を考慮した対雷設計は必須」という判断がくだされたのだ。
●取材・構成/中沢雄二
※週刊ポスト2011年11月18日号