業界や企業によっては、「暴力団排除条例」施行以前より反社会的勢力(反社)の排除活動に取り組んでいるが、条例施行に合わせ、初めて取り組み始めたところも多い。今回、本誌は主要企業、業界団体への聞き取り調査を実施した。各担当者からは困惑の声が聞こえてきた。
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たとえば、建設業界の悩みは“相手の見極め”に関する点だ。首都圏の建設業の業界団体では9月中旬に、会員企業を対象に暴排条例の説明会を行なった。同団体の広報担当者は語る。
「直接の下請け業者の身元は分かりますが、孫請け、ひ孫請けの業者になるとわからない。協会では下請け企業に対して『二次、三次の下請け業者と契約を結ぶ際も、契約書に暴力団排除の条項を盛り込むように』と呼びかけています。そして、暴力団関係者であると発覚した場合には発注企業が賠償などを一切せずに契約を解除できるようにしておく。契約時点で一社一社調べるのは現実的ではないので、それ以外に方法はない」
確かに、「排除条項」を入れた契約書を交わすことは、事業者にとっての自衛手段として有効だ。しかし、長年の付き合いがある取引先ともなると、条例に対応するための契約更新すら、思うようにならないケースもある。
神奈川県に拠点を持つある工務店では、現場の担当者が「契約を解除できる旨」の特約を盛り込んだ新しい契約書を取引先に持ち込んだら、相手の担当者から「信用していないんですか」「こんなに長いお付き合いなのに」と泣かれたという。
後日、上司が相手の社長に会いに行き、再度、契約更新を頼むと今度は「そんなに信頼できないのか。俺はあんたのところの先代社長からの付き合いなんだ」と怒鳴られてしまった。工務店役員は、嘆息交じりに語る。
「結局その業者とは取引しないことにしましたが、いやあ、本当に参ってしまいました」
※SAPIO2011年11月16日号