ノンフィクション『ベイリー、大好き セラピードッグと小児病院のこどもたち』(小学館刊)が出版されるなど、いま話題を集めているセラピードッグ。その日本初の小児病院に常駐するセラピードッグ・ベイリーがいるのが、静岡県立こども病院だ。
小春日和の穏やかな空が広がる昼過ぎ。白い毛並みの犬が、いつものようにハンドラーの森田優子さん(30才)と一緒に病院にやってくる。
「ベイリー、いらっしゃい!」
ナースステーションから看護師さんたちの明るい声がかけられるなか、ふさふさとしたしっぽを左右に振りながら、ベイリーは悠然とした足どりで廊下を進む。そして病棟の子供たちがみんなで遊ぶプレイルームにはいると、ベイリーはごろんと横たわる。たちまちパジャマ姿の子供たちが集まってきた。てんでにベイリーの顔や背中、しっぽ、足の裏をさわるが、ベイリーはまるでたじろがない。
(もっと、もっとさわってよ)
そういっているかのようだ。そんなベイリーに、子供たちのどの顔も、病気を忘れたかのように柔和になる。ベイリーは、ゴールデン・レトリーバー種のオスで、まもなく4才。オーストラリア生まれで、ハワイのトレーニングセンターで特別な訓練を受けて育てられたセラピードッグだ。
セラピードッグとは、体や心の病気、けがをした人たちの立ち直りをサポートするために、病院や診療所などで活動する犬のこと。盲導犬や介助犬などとともに、その活躍が最近、注目されつつある。
ベイリーが初めてハンドラーの森田さんと出会ったのは、2年前の2009年11月のこと。森田さんはそれまで、東京の大きな小児病院で看護師として働いていた。
「病棟で目にした子供たちの闘病生活は、想像した以上に過酷で厳しいものでした。治療に伴う恐怖や痛みなど、さまざまな試練を小さな体で耐え続けなければなりません。
日ごとに表情をなくしていく子供たちに、せめて笑顔を取り戻させてあげたい。そんな気持ちが募るようになったとき、ハンドラーにならないかという誘いを受けたんです」(森田さん)
ハンドラーというのは、トレーナーとしてセラピードッグと行動をともにし、アニマルセラピーに携わる人のこと。森田さんは迷うことなくこの道に進むことを決め、5年間の看護師生活に別れを告げた。ハワイのトレーニングセンターで研修を受けていた森田さんの元に、嬉しい知らせが届いた。
「病院にセラピードッグを常駐させる」――日本で初めてのこの試みに、静岡県立こども病院が賛同したというのだ。
研修終了を待たずに、ハワイから国際電話をかけ、森田さんは静岡市内にマンションを借りた。そしてベイリーとともに帰国。新しい一歩を踏み出したのだった。森田さんは、静岡県立こども病院で日々、ベイリーと子供たちと過ごしている。
※女性セブン2011年11月24日号