子供のうちに能力を開かせようと、子供に様々な習い事をさせる親は多いが、“脳によい”子供の習い事があるという。『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)でおなじみの脳科学者・澤口俊之氏が解説する。
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才能を見つけてやりたいとか、特技を持たせたいという親の願いからか、子供に習い事をさせている親は70%もいるそうです。
私も、「脳によい子供の習い事は何ですか?」という質問をよく受けます。その答えはズバリ、「ピアノのお稽古」です。その理由を話す前に、脳と習い事の関係についてお話しさせてください。
脳の発達からみると、新しいことを学ぶとか、刺激を受けるなどの進化的な行為や環境は、子供の脳の発達にプラスに働きます。
例えば、人間の脳は、誕生直後からお母さんの声に強い反応を示します。これは、聴覚を利用した音声言語(話し言葉)が、新生児にとって進化的な環境や行為になっているからです。
だからお母さんからの語りかけが多い子供ほど脳の発達はよくなります。とくに2才ごろまでが重要で、この時期にお母さんからどの程度語りかけられたかで、その後の知的能力や社会的能力の発達に大きな差が出てきます。
さて、ピアノに話を戻しましょう。音楽は音声言語に匹敵するほど脳の発達に影響を与えるものです。音楽を聴いたり楽器を演奏したりすることは進化的な環境・行為になります。楽器の稽古はいわば「進化的な習い事」なのです。そのため、言葉を聞いたり話したりすることで脳がよく発達するように、幼少期の楽器稽古は脳の発達を促します。
ですが、楽器演奏がよいといっても、どんな楽器でもよいわけではないようです。この点がはっきりしないのは楽器演奏に関する研究の場合、ピアノ演奏を扱うことが多いせいです。例えば、バイオリンがいいという説もあるようですが、バイオリン演奏と脳の発達に関するきちんとした研究は皆無に等しいといってよいでしょう。鍵盤ハーモニカに関しては、私自身が調査しましたが、脳の発達を促すという明確な効果は認められませんでした。
けれど、ピアノの場合には、両手を複雑に使うという要素があるため、この点だけでも脳の発達によい影響を与えることは予測できます。なぜなら両手の指の運動に関係する脳領域の代表は「補足運動野」という場所で、前頭前野とかなり強い神経連絡があります。
この連載で何度もお話ししているように、前頭前野は、知的能力や社会性など、ヒトに特有の活動の中心を担っている脳領域です。両手を複雑に使うことで、補足運動野が刺激され、さらに前頭前野を刺激するのですから、ピアノの練習は脳の発達を促すと明確にいえるのです。
※女性セブン2011年11月24日号