英子会社出身のウッドワード社長の解任から発覚したオリンパスの巨額粉飾問題。オリンパスは有価証券の巨額の含み損をファンドやM&Aを使って“飛ばし”ていたという。
巨額損失隠し事件としては、10年にわたって2500億円もの損失を隠していた山一証券の例がある。
当時、監査で損失隠しを見抜けなかったと批判された公認会計士は、後にその理由について、信託銀行や大口顧客、海外の弁護士事務所などが監査を妨害していたこと、そして損失隠しを指南した「便利屋」がいたことが災いしたと語っている。
今回の事件がどういう経緯だったかは、今後の内部監査、調査・捜査当局の取り調べの結果を待たねばならないが、このような粉飾の手口はそれほど複雑でも珍しくもなく、そこには多くの場合、「粉飾請負人」として「便利屋」が関わっているのである。
本誌は、かつて大手証券会社に在籍し、その後、独立して「便利屋」になったA氏の告白を得た。
「私のような損失飛ばしの指南役はたくさんいる。多くは元野村証券など大手証券の出身者だ。大企業の経営者ほど、そういう肩書きで簡単に信用してくれる。
損失を飛ばすにはいろんな方法があるが、海外ファンドを使うというのは、常識から考えてプロでなければやらない手口。どちらかというと“良心的なやり方”になるんじゃないか。
つまり、実体のない売り上げを計上するとか、ない資産を“ある”というようなものが悪質なやり方だとすれば、今回のスキームは含み損をいったん社外に飛ばすために、その買い取り資金をファンドを経由して自分で出している。つまり、この取引自体でオリンパスは損も得もしていないし、飛ばした含み損とオサラバできたわけでもない。
このやり方の場合、恐らくは損失処理を遅らせることが主要な目的であり、何年もかけて少しずつ、利益の出ている範囲で損失を処理していくつもりだったのではないか」
それを“良心的”というかどうかは別にして、今のところ裏金作りや横領などは見つかっていない。大雑把にいえば、いったん自分がオーナーのファンドに自分の不良資産を買い取らせて大損させておき、その後は自分がそのファンドで少しずつ損を出して、いずれ損失は全額、自分の会社に戻ってくる――という仕組みだったようだ。
だとすれば、「便利屋」はどうやって儲けるのか。A氏が続ける。
「もちろん仲介料はそれなりに取っているだろうが、報道されているように何百億円もポケットに入ったわけではない。オリンパスから出たカネの大半は、含み損を抱えた有価証券を買い取るために使われたのだから、仲介者はそれほど非常識な儲けは得ていないだろう。
それでも数百億円をファンドに入れていたなら、その手数料だけで毎年数億円が入ってくる。数人の仲介者が山分けしていたとしてもボロい商売だ」
A氏自身、いくつかの企業で損失飛ばしを手掛けたことがあるという。その経験から感じるのは、「大企業の経営者の多くは、金融や会計の基礎知識や法律の理解がなく、こちらが“こうやれば大丈夫ですよ”というと簡単に信じる。そして社長がそれでいいといえば、取締役会も監査法人も追認する。最近増えている社外取締役も、ほとんどは名誉職のようなもので、チェック機能を果たしている例はほとんどない」という実態だという。
オリンパスがそうしたケースだったか、それとも新聞やテレビが報じるように経営陣に「ひどいワル」がいたのかどうか、全容解明が必要だ。
※週刊ポスト2011年11月25日号