元横綱・隆の里の鳴戸親方(享年59)が7日、福岡市内の病院で急逝した。誰もが「まさか」と思ったという体調の急変。発表された死因は「急性呼吸器不全」。が、それは“死の原因”ではない。
「呼吸不全とは死を迎える最終的な状況の診断であり、それに至るには打撲や火傷のショック、肺炎などのさまざまな理由があります。首吊り自殺や服毒自殺の場合も最終的な診断は『呼吸不全』や『心不全』になるわけです」(日本病理学会理事の黒田誠・医師)
つまり、「呼吸不全」に至る原因は謎のままなのだ。二所一門関係者からはこんな話が漏れている。
「夕方に糖尿病の薬の量を間違えて飲んだ。それで呼吸困難になったようだ」
確かにインスリン過多による低血糖が呼吸困難を招くことはある。が、19歳から糖尿病と付き合ってきた鳴戸親方は、「緊急薬」の袋を持ち歩くほど気を遣っていただけに、服用量を間違えたとは考えにくい。鳴戸部屋関係者からは衝撃的な証言も得られた。
「稽古が終わった後に精神安定剤を大量に飲み、意識が朦朧として病院に行ったと聞いている」
もちろん、精神安定剤を処方されていたという証拠はない。ただ、いずれにしても稽古が終わってから病院に向かうまでの親方の行動については、情報が伏せられたままだ。そのために協会関係者の間には、「自殺だったのではないか」と訝る声が絶えない。
そうした憶測を呼ばないためには、病理解剖(※)を実施することも考えられよう。だが、解剖は行なわれなかった。前出・黒田教授がいう。
「死に至った原因が不明な場合、それを特定するために主治医はご遺族に病理解剖を勧めます。しかし、死体解剖保存法では『遺族の承諾』が必要とされており、ご遺族はご遺体が刻まれるのを嫌がられることが多い。大学病院での病理解剖率はかつて8割近くでしたが、近年では1割程度です」
病院は「解剖を勧めたかどうかは答えられない」としたが、「夫人が解剖を断わったようだ」(前出の部屋関係者)という。夫人や部屋衆は「呼吸不全に至る出来事」を把握していたからなのか……。鳴戸部屋の宿舎に理由を問うたが、答えはなかった。
※病理解剖/病死者の死因や、病気の種類などを解明するために行なう解剖のこと。犯罪に関係のある(またはその疑いのある)死体を解剖する「司法解剖」、感染症や中毒などで死亡した疑いのある死体について行なわれる「行政解剖」とは異なる。
※週刊ポスト2011年11月25日号