たかがトイレ掃除。でも、延々と繰り返される、終わりの無い時間。だとすれば、「きれいになる」という結果も大事だけれど、いかに心地よく掃除できるか、というプロセスはもっと大事かも。そこに登場した、「拭いても拭いても破れないトイレットペーパー」。作家で五感生活研究所の山下柚実氏が試してみた。以下は山下氏の報告である。
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ほんとかいな? 半信半疑。それが第一印象だった。
「トイレットペーパーがボロボロにならない」という大きな文字が目に飛び込んできたから。私の前には、トイレ用洗剤『ルックまめピカ』のボトルがある。
何だか挑戦を受けた気分だ。「ようし、試してみようか」と、思わず意気込んでしまう。
洗剤のノズルを握ると、シュシュッと白い泡が出てきた。その泡をトイレットペーパーに吹きつけて、思い切り便器を拭いてみる。
あらっ?
経験則から言えば、ここで水分を吸った紙がボロッと崩れていくはず。でも、私の手の中のトイレットペーパーはまるで動じない。古布のように形を保ったまま、便器の縁をするーっと滑っていく。
小気味良い肩すかしをくらった気分。
たかがトイレ掃除。でも、延々と繰り返される、終わりの無い時間。だとすれば、「きれいになる」という結果も大事だけれど、いかに心地よく掃除できるか、というプロセスはもっと大事かも。
拭いても拭いても破れないトイレットペーパーの不思議な感触が、私の手に刻みこまれた。
「ホントかな、という疑問に応えるために、試行錯誤を繰り返してきました」
発売半年で370万個もの大ヒットとなった『ルックまめピカ』。開発に携わったライオン・リビングケア事業部の横手弘宣氏(33)は振り返った。
トイレ用洗剤は、すでに飽和したマーケットと考えられてきた。商品価格は低下し、数量も伸びる見込みがない。2008年、ライオンはそんな成熟市場に新商品を投入すべく、開発を始めた。
「弊社の定番に『トイレのルック』というボトル型洗剤がありますが、これは言ってみれば汚れを落とす洗浄機能を一生懸命、追求してきました」(横手氏)
今、230億円と言われるトイレ用洗浄剤市場の商品には、大きく分けて『トイレのルック』のようなボトル型洗剤と、拭き掃除のシートタイプ、そして水に溶け込ませて流す固形剤の3つがある。実は市場の売り上げの半分を占めるのが、シートタイプ。しかし、ライオンはこれまでシートタイプの主力商品を持てずにいた。
「新商品の開発にあたって、主婦の生活習慣を検証し直すため、インタビューや調査を行ないました。すると、トイレの汚れは、気付いた時にささっと掃除したくなるという行動様式が見えてきました」(横手氏)
ただでさえ忙しい現代人は時間を細切れに使う。「トイレをささっとひと拭き」は、時間に追われる人の自然な行動なのだ。しかも近年、トイレは新しい視点で見直されている。
「トイレが明るくなり、空間としてきれいにしておきたい場所へと変化しているんです。だから掃除も、便器だけでなく床や壁を拭くという人が増えました」(横手氏)
一方で、消費者が不満に思っていることがあった。
「トイレットペーパーであちこち拭くと、すぐボロボロになってしまう。そんな悩みを回答した人が83%もいました。こんなに多くの人が同じ経験をしているのかと、正直驚きましたね」(横手氏)
「こまめに掃除」し、「便器だけでなく空間もきれいに」したい消費者。しかし、汚れに気付くたびにトイレシートを使うのはコスト高。かと言って、トイレットペーパーではボロボロになってうまく拭けない既存の洗剤やシートだけでは、「生活者のニーズ」に十分応えていないことが調査から浮き彫りになっていった。
「そこで、1日何回もさっと拭くスタイルを『こまめ拭き』と名付けて、新商品開発の軸に据えることにしたのです」(横手氏)
開発の途中で商品に疑問が提示されるたびに、開発チームは原点に立ち戻った。「こまめ拭き」のニーズに応えること。トイレットペーパーで拭くことのできる洗剤を開発すること最後までこの軸はブレなかった。
※SAPIO2011年11月16日号