老人が転倒して骨折し、寝たきりになることで痴呆症などを引き起こし、寿命を縮めるケースは多い。身体の不調は脳にも悪影響を及ぼすものだ。ならば、身体が健康な老人は、“頭の中”も健康なのではないか。元気な100歳超の人の脳をMRI画像で診断してみると、驚異的な脳の持ち主ばかり。そこにはしっかりと長生きの秘訣がとらえられていた。
「去年は全国78か所、今年も同じペースで長寿の秘訣を伝授する講演を行ないました。明日からは世界一周講演旅行に出掛けます」
元気よくこう話すのは、教育学者で、知的障害児のための通園施設「しいのみ学園」(福岡市)の園長である曻地三郎さん。
足取りも確か、背筋もピンと伸び、口調もしっかりしていて、70代か、せいぜい80代にしか見えないが、実際はなんと明治39(1906)年生まれの満105歳だ。今度の世界一周講演旅行は100歳を超えてから5度目になる。これは「100歳を超えてからの世界一周講演旅行の回数」の世界記録になるとしてギネスブックに申請中だ。
実は、曻地さんのかくしゃくぶりは見た目や言動だけではなく、脳のMRI画像にもはっきりと表われている。
曻地さんが今年2月、満104歳の時に撮影された画像を見た医学博士の加藤俊徳氏は驚いたという。加藤氏は脳のMRI画像診断の第一人者で、過去20年余りの間に、幼児から100歳超の人に至るまで、計1万人以上の脳の画像分析を行なってきた。7年前にも曻地さんのMRIを撮影・分析している。
「曻地さんの脳は『すごい』の一言です。脳年齢は40歳ほど。医師の立場からすると、衝撃の画像です。加齢による微小な脳梗塞がほとんど見られないどころか、健康な70代、80代の人の脳と比べても、頭蓋骨いっぱいに、ぎっしりと詰まっています。特に思考系、視覚系、記憶系の『脳番地』が発達しています。一般的にいっても、歳を取ってからも頭と体が元気な人は、それに対応する脳番地が発達しているんです」
ここでいう「脳番地」とは、加藤氏が考案した独自の概念。
「ごく簡単にいうと、脳の機能によって使われる脳の場所は異なります。そこで、脳全体をそれぞれの機能ごとに120に区分し、それぞれに数字や記号を割り当てたのが脳番地です。
大まかには“考える”(思考系脳番地)、“感じる”(感情系脳番地)、“話す”(伝達系脳番地)、“体を動かす”(運動系脳番地)、“理解する”(理解系脳番地)、“聞く”(聴覚系脳番地)、“目で見る”(視覚系脳番地)、“覚える”(記憶系脳番地)の8つに分けられます。例えば、右手と左手とで器用さが異なるのは、右手を動かす脳番地と左手を動かす脳番地が異なり、それぞれの発達具合が異なるからです」
※週刊ポスト2011年11月25日号