先の主要20か国・地域(G20)首脳会議で野田佳彦首相が消費税引き上げを「国際公約」したと各紙が報じた。この「国際公約」とはどういう意味なのか? その単語の意味を東京新聞・中日新聞論説副主幹の長谷川幸洋氏が解説する。
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日本国内で本格的な増税論議が始まっていないのに、外で約束するのは手順が違う。後で批判を浴びるのを承知のうえで、野田がまず国外で消費税引き上げを約束したのはなぜか。
「対外的にも約束したから先送りできない」という論法は野党や国民向けには使えない。なぜなら「外でそんな約束をしたお前が悪い」という話になって責任追及されるのが関の山だからだ。
そうではなく、これは民主党の党内向けだ。いずれ与党内では消費税引き上げ法案をめぐって火花が飛び散る。増税反対派をどう説得するか。そのとき「総理が国際公約した話なんですよ。それでも反対するなら総理の面子をつぶすだけでなく倒閣話になる。党を壊すつもりか」という脅し文句に使うつもりなのだ。
与党議員は野党と違って基本的には総理を支える立場にある。その野田が世界に増税の決意を示した以上、反旗を翻すならもはや政局、党内権力闘争になる可能性が高くなった。 野党がいくら「中で話す前に外で約束するとは何事だ」と拳を振り上げたところで「これは私の方針です」と突っぱねてしまえば、それまでだ。
本当に怖いのは野党ではなく、与党内からの造反だ。それを抑えこむために、いまのうちに思い切ってルビコン川を渡ってしまった。そんなところではないか。先手必勝の作戦である。
野田にこういう知恵を授けたのは、もちろん財務省だろう。まず野田を先に動かして、絶対に後戻りできないようにする。引き上げ撤回を言い出せば、直ちに政権崩壊という断崖絶壁に追い込んだ。そのうえで与党内の反対派とはガチンコ対決させる。腰が引けたほうが負けという構図だ。今回の「国際公約」は国内政治の産物でもある。
※週刊ポスト2011年11月25日号