「同じ墓に入ろう」がプロポーズのキメ台詞だったのは、いつの時代だったろう。いまや女性の間では、ご先祖様どころか、夫とも一緒の墓に入りたくないというのが“常識”だ。トレンドは「自分だけの墓を買う」である。
「妻がいきなり『墓を買った』というんです。何のことかと思ったら、彼女の姉妹と一緒に入る墓を共同で買ったと。『あなたは実家の墓に入るなり好きにして』というんですが、いきなりの話で、正直戸惑っています」
都内に勤める40代サラリーマンの嘆き節だ。
かつて墓といえば、「先祖代々」「夫婦で入る」、妻であれば「夫の実家の墓に入る」というのがスタンダードだった。だが、そんな時代は去った。
家族や一族のものではなく、自分だけの墓。そんな「マイ墓」が今、注目を集めている。
拍車を掛けたのが、実は震災である。
「被災地の映像を見ていたら、人間いつ死ぬかわからないなあって考えさせられて、迷惑をかけないようにお墓ぐらいは今から自分で用意しておこうと思ったんです」
そう語るのは先月、都内のある寺で一式約100万円の「生前個人墓」を契約した42歳女性だ。
生前個人墓とは、先祖代々の家族の墓ではなく、多くはアカの他人とともに納骨堂などに納められ、個々には小さな墓標のみが与えられるスタイルだ。墓の掃除も供養も不要で、管理はすべて寺がやってくれる。何十年か安置した後、家族や知人が他界して無縁化したら“合祀墓”に入れられて、永代供養を受ける。通常の墓の場合、永代使用料と墓石の費用を合わせると平均で200万~250万円程度はかかるので、格段に安く済む。
1996年にはじめて「生前個人墓」のシステムをつくり、一式80万円で販売している東京・新宿区の東長寺「縁の会」事務局の佐々木真紀江氏は、「現在1万1000人が登録しており、概念がだいぶ定着してきた」と話す。
墓の個人志向。日本一の登録件数を誇るお墓の総合サイト「いいお墓」の西本暢氏はこう分析をする。
「個人墓のある霊園自体が少なく、数は“家墓”(先祖代々の墓)に比べるとまだまだですが、注目を集めているのは事実です。核家族化や少子化で、日本人の葬送スタイルが変わって“墓を守る”意識が希薄になっている。独身の方や高齢者が震災で“死”と向き合って、死後誰かに迷惑をかけたくないという責任感も後押ししているのではないでしょうか」
「墓」に対する意識は確かに変わりつつある。昨年7月に第一生命経済研究所が発表した調査では、「先祖代々の墓に入りたい」と答えたのは男性が48.6%とほぼ半数いたのに対して、女性は29.9%と温度差がある。さらに、2005年発表の同調査では、「夫婦は同じお墓に入るべきである」という考え方について、男性が「どちらかといえばそう思わない」「そう思わない」を合わせてもわずか6%程度に対し、女性は17.5%だった。つまり、6人に1人は夫と同じ墓に入りたくないというのが女性のホンネなのだ。
※週刊ポスト2011年11月25日号