巨額の損失隠しが発覚し、窮地に追い込まれたオリンパス。なぜこんな事態に陥ったのか、その裏側をジャーナリストの須田慎一郎氏がレポートする。
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「今後の状況次第では、上場廃止は言うに及ばず、会社の存続自体が危ぶまれることになってきた」
オリンパスの取引銀行役員が、こう指摘する。
去る11月8日、オリンパスの高山修一社長が記者会見に臨み、これまでの「過去の企業買収は手続きも金額も適正」としていた説明を全面的に撤回し、問題とされる一連の投資案件に関して「(旧経営陣に違法性の認識は)あったと思う」(高山社長)という踏み込んだ発言をした。
証券取引等監視委員会(日本版SEC)の幹部が言う。
「今どきこんなことをやっている上場企業があること自体、大きな驚きだ」
そもそもオリンパスの蹉跌は、1990年代にまでさかのぼる。積極的に“財テク”を展開していた同社は、バブル崩壊によって多額の損失を抱え込んでいくことになる。
「当時の一部経営陣は、そうした“損失”を簿外に移しかえました。『飛ばし』をすることで、財テク失敗による損失が表面化することを回避したのです」(オリンパス幹部)
そしてその「飛ばし」の受け皿として利用されたのが、海外に設立された複数のファンドだった。
「当初は、そうしたファンドを使って徐々に損失を圧縮していくつもりだった。結果的にそうした目論見は、物の見事に外れてしまったが……。この『飛ばし』の存在は、オリンパス社内にあっては秘中の秘だった」(オリンパス幹部)
この幹部によれば、「飛ばし」の管理は、オリンパス社内に設置された「事業投資審査委員会」が一手に引き受けていたという。
「その委員会のメンバーは、経営企画部、経理部、総務・財務部に籍を置く一部社員によって構成され、委員長は菊川剛前会長が長く務めていた」(オリンパス幹部)
こうした状況から判断しても、一連の「飛ばし」が組織ぐるみで行なわれていたと見て間違いないだろう。
「証取委もこれまでの内偵調査でそうした状況を既に把握していると考えてもらっていい」(証取委幹部)
このコメントからもうかがえるように、証取委の調査はかなりのレベルまで進んでいるのが実情だ。
「これまでにオリンパスからは相当数の内部資料、たとえば同社とファンドとの契約書などの提出を受け、すでにその解析作業に取りかかっている」(前出の証取委幹部)
いずれにしても証取委の強制調査着手、そしてその結果を受けての検察当局への刑事告発は、もはや時間の問題と見ていい。つまりオリンパスを舞台とした一連の不正経理疑惑は、一気に大型経済事件に発展していく様相を呈してきたと言えよう。
※SAPIO2011年12月7日号