デフレ不況、東日本大震災の傷痕に苦しむ日本経済。反転攻勢の頼みの綱となるのは、巨大市場中国への輸出だ。だが、その中国にも危機が忍び寄ってきている。多額のユーロ債券を持つ中国にとって欧州の金融不安は対岸の火事ではない。国内もインフレやバブル崩壊のリスクがつきまとう。中国経済が崩壊した時、日本経済には何が起きるのか。
上海市に住む商社マンは、きっぱりとこう言い放った。
「不動産価格の上昇は常軌を逸していて、中国のバブル崩壊は秒読み段階に入ったと思います。今のうちに稼げるだけ稼いで、さっさと逃げ出すだけですね」
しかし、日本に逃げたとして、果たして「対岸の火事」で済ませられるのだろうか。そして、中国の不動産バブルが弾けると、日本はどのような影響を受けるのか。
2010年に中国はGDPで日本を抜いて世界第2位の経済大国となった。隆盛の中国経済に寄り添うように日本の中国依存も増え続け、今や貿易輸出額は10兆円を超え、アメリカを抜いて最大の輸出相手国になった。震災で落ち込んだ日本の景気を回復させるうえで、中国市場への期待は大きいが、中国の景気が揺らげば、その目論見もはずれる。拓殖大学の宮崎正弘客員教授は、こう指摘する。
「不動産投機の主要なプレーヤーには、国有銀行、国有企業、地方政府も含まれ、ダミー会社を通じて不動産投機をしてきた。これらが大損害を被れば資金繰りが悪化し、公共投資が止まるのです。今や中国の主要産業は不動産開発と言われ、この状態で失速すると影響は大きい。
だから、中国に進出しているコマツや日立建機などの建設機械企業やゼネコン、建材関連、さらには新日鉄などの鉄鋼関連、産業用工作機械関連の企業などは、減収を余儀なくされることになる」
それぞれの業界でどのような影響が出るのかは後述するが、各業界で輸出が減れば、当然、マクロ経済的にはGDPに影響が出る。
埼玉大学経済学部の相澤幸悦教授が解説する。
「中国への輸出が減れば、当然、貿易黒字が減り、GDPは減少します。日本の経済成長力に直接の影響を及ぼす。それで済めばいいほうです。
10月24日に財務省が発表した2011年上期(4~9月)の貿易統計速報では、貿易収支は1兆6666億円の赤字だった。赤字になったのはリーマン・ショック後の2008年下期以来で、赤字幅は第2次石油ショックに次ぐ2番目の規模です。そういう中で中国経済が崩壊すれば、貿易赤字が常態化する可能性もあり得ます。
また、企業では解雇が発生するでしょう。しかし、見かけの失業率は必ずしも高まらないと考えます。日本的経営だと、人件費削減のために解雇した後、改めて非正規社員として再雇用するケースが多いと思われます。ですから統計上の失業率は上がりませんが、その時点で報酬は一気に下がります。
国内の景気が冷え込めば、企業の株価は下がり、日経平均株価は5000円台になる可能性も考えられます」
株安の一方、為替レートはどうなるのか。
現在1ドル=70円台後半で攻防が続いているが、これがさらに円高に振れる可能性がある。なぜか。
「中国という巨大マーケットが失われると困るのは日本だけではありません。空前の失業率に苦しむアメリカにとっても中国はアメリカ製品の大事な売り込み先です。もし13億人のマーケットが失われれば、オバマ政権はかわりに日本にモノを売ろうとするでしょう。その場合、あらゆる手立てでさらなる円高ドル安に誘導することが想定されます。QE3(量的金融緩和第3段)などの政策を行なうかもしれません。
しかし、それだけでは限界があります。そこで気になるのがTPP(環太平洋経済連携協定)です。輸出を増やしたいアメリカが、日本の公共事業やサービス分野への参入を狙って進出してくるシナリオは十分に考えられます」(相澤教授)
※SAPIO2011年12月7日号