警視庁OBと再就職先との接点を差配するのは警視庁内の警務部人事第一課だ。各企業から募った求人票を同課が管理・公表し、定年を控えた職員が、その情報を頼りに再就職活動に励む。今回、本誌は情報公開請求で、その求人票55件を入手した。三井物産、三井住友海上、読売新聞……リストには商社から百貨店まで多様な名前が並んでいる。
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暴排条例によって警察OBの“引き受け手”が拡大した現在――そこには民間では考えられぬほど高待遇の条件が明記されていた。
本誌はリストに明記された各企業に取材を申し込んだが、「開示しておりません」(三井物産広報)、「個人情報にかかわることもあり、開示していません」(東武百貨店)等との回答だった。
そこで、元警視庁職員で、現在は大手建設メーカーに天下ったOBに話を聞いた。
「民間に天下った場合、総務部や人事部に籍を置いてクレーマー対策や労働組合の監視、そしてトラブルがあって当局から事情を聞かれた際、窓口としての役目を担わされることが多い。ただ、あくまで“万が一”に備えた職務であって、通常業務は暇です(苦笑)」
暴排条例施行を機に暴力団との関係を断とうとしている企業にとっては、警察OBは“抑止力”になる。特に大手企業が本社を置く東京を管轄し、独自の情報ネットワークを持つ警視庁OBの人材は、引く手あまた。
一方で、こんな具合に警視庁OBのノウハウが活用されることもある。
「ある新聞社に天下った警視庁OBは捜査一課にもいたバリバリの元刑事です。若い警察担当記者向けに警察がどんな捜査をするのか、レクチャーを頼まれたといっていた。また新聞社の販売局に再就職し、“押し売り”などが問題視される新聞拡張団のトラブル対策を任された警視庁OBもいる」
リストには、民間以外にも役所や公益法人、外郭団体の名前も目立つ。驚くべきは、その雇用条件である。
たとえば仕事の内容に、「運転経歴と交通事故証明発行業務」等と記された自動車安全運転センター(警察庁所管の民間法人)の求人票をみると、賃金条件の欄には「年収450万円」。
また、警視庁管内特殊暴力防止対策連合会(公益社団法人)は、勤務時間「午前9時~午後5時」で、賃金条件はなんと「年収600万円」。
だが、同会に話を聞くと「(賃金は)逆に低いくらいです」という声が返ってきた。同会専務理事の話。
「扱う業務は、暴力団や右翼団体などからの、企業への金銭要求やいやがらせを防止するための会員企業への情報提供です。現相談員は全員警察OBで暴力団対策のプロで、求人をだしているのは警視庁の警視クラス。警視以上の再就職賃金の平均からすると低いぐらいです。暴排条例施行もあり、相談件数もとても多くなっていますから」
だが、いくら警視クラスにしては安い、といっても60歳以上の再就職年収相場とは隔たりが大きい。都内民間人材紹介会社の担当者が呆れかえる。
「60歳から再就職先を探すと、このご時世ですから非常に難しいものがある。資格など何もないと、見つけたとしても年収ベースで200万程度が一般的です。警察という特殊経験を積んできた人材だからこその求人でしょうが、リストを見る限り、特別な経験を必要とする仕事とは思えない」
採用条件を見てみよう。防犯活動の普及を業務内容とする東京防犯協会連合会は「警部で、パソコンのできる者」。犯罪被害者に対する精神的支援業務を行なう被害者支援都民センターに至っては「能力については、ある程度、素養のある方であれば1年かけて育てることを視野に入れています」。
※週刊ポスト2011年11月25日号