TPP(環太平洋経済連携協定)をめぐり、日本では「TPPでコメや畜産などの農業が壊滅する」「公的医療保険の制度崩壊に繋がる」など、主にマイナス面から交渉参加に反対する意見が噴出している。しかし、安全保障が専門の森本敏・拓殖大学海外事情研究所所長は「TPPについて関税の話だけに終始するのは狭い見方」と語る。以下は、森本氏の解説である。
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日本のTPP交渉参加は経済や医療・福祉問題だけにとどまらない。結局のところ、それは「日米同盟の選択」を意味する。日本が平和と繁栄のために、今後も日米同盟を基軸とするかどうか。日米同盟を堅持するのであれば、「NO」という選択肢はないはずだ。TPP交渉参加の是非に関して、こうした観点の議論がないことが、とても奇異に思える。
TPPはもともとシンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイの4か国が始めたEPA(経済連携協定)が起源だが、その後、米国、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わり、9か国が協定締結に向けて交渉を続けている。
重要なことは、アジア太平洋先進9か国(日・米・韓・シンガポール・オーストラリア・ニュージーランド・カナダ・メキシコ・チリ)で、米国がFTA(自由貿易協定)を締結・交渉していないのは日本だけ、という深刻な事実である。
このことは、日本がTPP交渉に参加するかどうかで、アジア太平洋地域の経済発展のために(たとえ国内の犠牲を払ったとしても)米国の同盟国として取り組んでいく覚悟があるのかどうかを同時に問われている、と見るべきだ。
にもかかわらず、APEC開催を前にして、JA全中(全国農業協同組合中央会)が1000万人を超える署名を官房長官に届けたのをはじめ、日本医師会や消費者団体などTPP交渉参加への反対運動が一層激しさを増した。
特に、民主党内で慎重論の立場をとる議員は、当初、党所属国会議員の半数にあたる約200人に上った。こうした政治家の言動の数々は、TPPを対象分野の関税撤廃という側面ばかりから捉えており、いかにも視野が狭い。それだけを見ていると問題を見誤る。
※SAPIO2011年12月7日号