東京電力は原発事故の収束、被災者への賠償さえ遅々として進まないのに、早くも自分たちの商売のために“ライバル”を潰しにかかり、なおかつ原発を再び推進する布石を打っている。
10月1日、東電はとんでもない“改革”を断行した。自家発電の買い取り価格を突然、大幅に引き下げたのである。
理由を質すと、「閑散期に価格が下がることは、あらかじめ伝えてある」(総務部広報グループ)という。
震災直後、原発だけでなく火力発電所なども運転できない状態になり、首都圏で大停電パニックが起きたことは記憶に新しい。電車は止まり、一般家庭でも輪番停電が実施されて国民は大迷惑を被った。操業停止に追い込まれた企業の損害は莫大である。
それでも、国民も企業も東電に賠償を求めるわけでもなく、それどころか停電したのに通常通りの電気料金を支払った。それが原発被害を受けた地域のために使われるなら気持ち良く出そうと考えたからだ。
それだけではない。鉄鋼、鉄道、化学などの大手企業では、自前で持つ発電所をフル稼働させて東京電力に電力供給し、国民生活と企業活動の機能停止を最小限に食い止めた。なかには老朽化した施設を修理し、あるいは新設して協力した企業さえある。
自家発電の買い取りは平常時から行なわれているが、東電は震災直後、電力不足に対応するために自家発電を持つ企業にできるだけ稼働するよう働きかけ、「そのかわり電力は高く買う」と申し出た。
そもそもこの時の要請自体が高飛車で、おかしかった。助けを求めているくせに「高く買うのは夏季の間だけ」「電力の余る夜間は安くする」「日祝日も要らないから安くする」と、自分たちの論理を押し付ける内容になっていた。
それでも、施設を新設して売電に努めた企業にとって、10月になった途端に「これからは半額で」といわれれば、震災の混乱のなかで決断した設備投資を回収できないばかりか、今後は発電するほど赤字になる恐れさえ出てくる。
※週刊ポスト2011年11月25日号